日大の田中理事長に捜査の手が伸びるか 独裁体制を許す学校法人の構造的問題点

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法人を代表できるのは理事長ひとり

 では、この資金の流れに田中理事長は関与していないのか。大学など学校法人の問題に詳しいジャーナリストが解説する。

「一般的に学校法人では圧倒的に理事長に権限が集中しています。株式会社や財団法人の『定款』に相当する規定を学校法人では『寄附行為』と呼びますが、日大の寄附行為には『理事長以外の理事は、この法人の業務についてこの法人を代表しない』と書かれています。日大は教職員合わせて7000人以上にのぼるマンモス学校法人ですが、法人を代表できるのは理事長ひとりなんです。理事長が知らないまま、24億円もの多額の契約を一理事に過ぎない井ノ口容疑者が勝手に結ぶことはあり得ないでしょう」

 これでは理事長の独裁が許されることになると、多くの方は疑問に思われるに違いない。実は、他の法人とは異なる、学校法人独自の理事長の選任法に問題がある。

 学校法人には評議員会があるものの、財団法人などのように評議員会が理事を選任する議決権はない。しかも現職の職員や教員が評議員を兼ねることもあり、彼らが理事長に逆らえるはずもない構図になっているという。

「さらに日大の場合、125人もの評議員がいます。これは私立大学ではかなり多い。そのため意見がまとまるはずもなく、また36人いる理事は実質的に理事長が決めているので執行部案に反対などできません。アメフト問題の際にもこうした日大のガバナンス体制が問題視されましたが、何も改革されることはありませんでした。井ノ口容疑者がわずか2年で理事に返り咲くことができたのもそのためです」(同)

日大には年間約90億円の助成金

 また、本来業務の発注先は理事会が決定すべきだが、日大事業部という完全子会社に発注したことにも問題がある。こうした子会社が学校法人の不正に使われるケースが増えているという。学校法人に詳しい公認会計士が語る。

「大学の決算書は企業で言えば単体決算で、子会社を含んだ連結決算になっていません。最近、学校法人では子会社を作って、学校法人自身が行ってきた管理業務などを委託するケースが増えています。あくまで別法人なので、理事会が把握できないまま事業の委託先を決めたり、会社の経費を理事長や一部の理事が使い込んだりするケースなどが問題になっています。ですから、日大事業部という子会社にいた腹心の井ノ口容疑者が、実質的な決定権限を握ることができたわけです」

 文部科学省の中堅官僚は言う。

「近年、大学では不祥事が相次いでいて、ガバナンスの強化は喫緊の課題です。日大にも年間約90億円の助成金が国から出ており、今回の事件は国会でも追及される可能性があります。今、大臣の下に『学校法人ガバナンス改革会議』を置いて評議員会の権限を財団法人並みにする議論が進んでいます」

 私たち国民の税金が回り回って理事の懐に消えていたとすれば、大学トップの責任も問われるべきである。

デイリー新潮取材班

2021年10月12日掲載

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