ドラフト会場がどよめいた「隠し玉列伝」 最も記憶に残る西武が指名した食品会社社員

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 10月11日に開催されるドラフト会議。毎年注目の目玉選手がどの球団に指名されるかファンの興味は尽きないが、時には誰も予想もしていなかった“隠し玉”の指名に驚かされることがある。競馬でいえば、大穴に匹敵するサプライズ指名で話題をさらった異色選手たちを振り返ってみよう。

「石床って誰だ?」

 隠し玉第1号は、1965年の第1回ドラフトで阪神が1位指名した石床幹雄(土庄)である。同年の阪神は、高校ナンバーワン左腕・鈴木啓示(育英)の指名が確実視されていたとあって、別の高校生投手を1位指名した瞬間、「石床って誰だ?」と、会場は騒然となった。

 それもそのはず。同年の土庄は、ドラフト上位候補だった土井池憲治がエースで、石床は二塁手が本職だったからだ。実は、石床は高2の8月末、練習試合で岡山東商と対戦した際に、故障の土井池に代わって急きょ先発。1安打完封で、翌春のセンバツ優勝投手・平松政次に投げ勝っていた。

 たまたまこの試合を見ていた阪神・佐川直行スカウトが「スカウト生命を賭ける」ほど、石床に惚れ込み、“小豆島詣で”を続けていた。彼が通う土庄は香川県の小豆島にあるからだ。

 高校最後の夏、土庄は甲子園出場を逃し、石床の名は全国に轟くことなく終わる。内心ほくそ笑んだ佐川スカウトは、満を持して1位指名した。だが、阪神に入団した石床は、4年目にプロ初勝利を挙げた直後、慢性腎不全を患い、これから素質が花開こうとするときに不運にも引退となった。

会場は「エーッ!」

 石床同様、隠し玉1位として知られるのが、74年の近鉄1位・福井保夫(松下電器)だ。チームではドラフトの超目玉・山口高志の控えだったが、「力は山口と互角」と将来性を見込んだ近鉄が指名。

 同年のドラフトでは、近鉄が予備抽選で1番くじを引いたことから、「松下電器 投手」と読み上げられたところで、「やっぱり山口か」と周囲が固唾をのんだ直後、「福井」と来たので、会場は「エーッ!」というどよめきに包まれた。近鉄1年目にプロ初勝利を挙げた福井だったが、2年目以降伸び悩み、通算2勝に終わっている。

 76年の巨人1位・藤城和明(新日鉄広畑)も中央では無名に近い存在ながら、打者がストレートにヤマを張っていても、ストレートで空振りさせる豪快さが買われて、当初の1位候補・佐藤義則(日大)から急きょ方向転換。だが、通算14勝と大成せず、阪急、オリックスで通算165勝を記録した佐藤に大きく水を開けられた。

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