ヨルダン発の学園ドラマが描くイスラム教圏の“因習” 女性の自由や人権を蔑ろにする伝統

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 アフガニスタンでイスラム主義組織のタリバンが統治を開始。中東事情に詳しくはないが、黒衣の女性たちがSNSでタリバン支持を訴えたことは知っている。女性の権利は守られるというものの、旧政権よりも規定や制限が厳格化したという報道もある。なんだかキナ臭いというか口の中が苦い。その後、色とりどりの美しい民族衣装を身に着けたアフガニスタンの女性たちがSNSに登場し、タリバン政権に抗議。ホッとした。女性の自由や人権を蔑(ないがし)ろにする伝統は、もうそろそろ変えるべきだと思う。

 ふんわりと「イスラム教圏の女性と人権」に思いを寄せたタイミングで、鼻の利く友人が「ぜひ観てほしい」と薦めてきたのが「アルラワビ女子高校」だった。

 ヨルダン発のティーン向け作品で、女性のプロデューサー、ティマ・ショマリが制作。名門女子高で起きた悪質ないじめ、復讐に挑む主人公と聞いて「いじめ撲滅の啓発系」と思いきや!

 途中から口の中が苦くなる展開で、イスラム教圏の家族観というか因習に驚いて言葉を失う。そんでもって、ラストは衝撃の胸糞悪さ。憎たらしいいじめっこにリベンジして快哉を叫ぶ、みたいな勧善懲悪のスッキリ感はゼロ。口の中の苦みMAX、のどの奥には何かがつかえたような気分に。

 なるほど、これは人に勧めるな。展開が面白いとか奇抜とかではない。いじめの本質は万国共通で古典的でもある。ただ、いじめ以前の根深い問題がバーンと立ちはだかっている。女性の人権が皆無という点に思いっきり心を抉(えぐ)られるのだ。

 まあ、まずは概要を。いつもは俳優名で書くのだが、正しい日本語読みがわからんので、役名のみで書くよ。

 主人公はマリアム。良家の子女が集まる名門アルラワビ女子高に通っている。読書が好きで、噂話には興味がない。ところが権力者の娘・レヤンからなぜか目の敵にされ、陰湿ないじめを受ける。レヤンとつるむのは赤毛のラニア、とりまきのルカイヤ。この3人が学校を牛耳っている模様。

 レヤンは学校サボってボーイフレンドとデートするわ、先生や掃除の女性まで馬鹿にするわ、大嘘こくわ、陰で暴行するわでやりたい放題だが、父親が多額の寄付で学校を支えているせいか、ファーテン校長は見て見ぬフリをする。ただし、レヤンの腐った性根を問題視するアビール先生もいる。

 マリアムは精神的に追い詰められ、レヤン一味への復讐を決行。味方は転校生でハッキングが得意なノーフと、のんびり屋のディナ。ところが復讐は予想外の事態へ。ノーフとディナは良心の呵責(かしゃく)を覚えるが、マリアムの心の傷は癒えるどころか、人の心を失ってゆく。

 とにかく、母親たちが娘に理解がない点にも絶望する。「家族の恥」「評判に傷がつけば女性は終わり」と娘を追い詰める。さらに父や兄は横暴極まりなく、前近代的な父権主義ががっつり胡坐(あぐら)かいとる世界を映し出す。女子高生のいじめ問題を描きつつ、制作陣が全世界に本当に訴えたい真のメッセージはそっちじゃないかな。私はそう受けとめた。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年9月30日号掲載

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