【総裁選】決選投票を完全予測 河野太郎、頼みの綱は「議員心理」と「ラスト演説」

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高市氏2位の可能性とそれを阻む論理

 他方、得票差が小さいのが2位の岸田氏と3位の高市氏だ。高市氏の党員票が予想以上に伸びたり、逆に岸田氏の票が目減りしたりすることがあれば、高市氏が2位に浮上してくる可能性がある。

 ただ、ここに来て高市氏の2位浮上に障害が出てきた。それは、決選投票が〈高市氏VS河野氏〉になった場合、岸田氏支持議員のなかに、タカ派と見られている高市氏に乗れない議員が少なからずいて、河野氏に有利に働くという見方だ。ある岸田派幹部は「高市さんは心配だ。米国の中距離ミサイルを日本に配備するというのはちょっとどうかと思うな」と話し、決選投票では高市氏に投票しない意向を滲ませる。

 そのため「とにかく河野総裁誕生を阻止するには、高市氏を敢えて3位にとどめておいた方がいい」という声が高市氏支持議員の中にもあり、調整しようとする動きが出ている。つまり、高市陣営のなかには、たとえ高市氏が決選投票に進めなくても、河野氏の勝利だけは阻止したいと考える向きがあるのだ。これに対して高市氏を強力に支援している安倍前首相は、「そんな都合のいい2・3位連合はありえない。どちらでも3位になった方が2位の支持に回るのが当然だ」として引き締めを図るなど、陣営内でも考えが割れている。

 また河野陣営の議員も「2位は岸田さんより高市さんになってほしい」と口を揃える。そこで「1回目の投票で河野氏の票を高市氏に回してはどうか」という声も出てきていて、最終盤に向けて駆け引きが激しくなる模様だ。

 大方の予想通り、岸田氏が2位で決選投票に進んだ場合、高市票のほとんどが岸田氏に乗ることになる。2人の票を合わせると240票に達して、それだけで当選ラインの過半数215票を超える。今後、情勢に大きな変化がなければ、岸田氏勝利の公算が高い。

 決選投票では、都道府県連票が47票あるが、これは岸田氏の地元広島県など一部を除いて、ほとんどを河野氏が取る見通しだ。しかし、河野氏の1回目の議員票120票にこの都道府県連票47票、さらに野田氏が獲得した議員票20票すべてが仮に河野氏に乗っかったとしても、岸田・高市票から30票以上は引き剥がしてこないと河野氏の勝利はない。かなりハードルが高いことがわかる。

決選投票で河野氏逆転のカギ

 では、河野氏がこの状況を打開するカギはなにか。一つは1回目の党員票の結果でどこまで国会議員の心理に働きかけられるかだ。河野氏支持の中堅議員は「岸田さんは『聞く力』を掲げているのに、(河野氏支持が多い)党員の声を聞かないのかということになる。決選投票では派閥でまとまる動きがあるけれど、『党員から河野さん支持の声が多数上がっている』ということになれば、票固めのためだけに高市さんと組むのは理屈が通らない」と強気の姿勢を見せる。その理屈が一定の説得力を持つために河野氏は、最低でも党員票の50%、岸田氏や高市氏のダブルスコア以上の獲得が求められるだろう。

最後に問われる演説力

 ここで思い出すのは、2012年の総裁選だ。石破茂氏が1回目の投票で党員票の55%を獲得したのにも関わらず、決選投票で安倍氏が逆転勝利した。今回ほど総選挙が近接していなかったとはいえ、党員票が多いというだけでは議員票が動かない可能性もある。

 私は、もう一つのカギが投票直前の演説にあると見る。投票直前の会場では、各候補者の最後の演説が行われる。かつての派閥ガチガチの総裁選なら最後の演説が議員の行動に影響することなどあり得なかっただろうが、今回は派閥の締め付けがほとんど効かない、これまでにない総裁選だ。ここまで派閥横断的に世代間の考えの違いが浮き彫りになった総裁選もかつてない。

 最終演説では個別の政策にもはや言及する必要はない。なぜ自分がこの国のリーダーを目指すのか、日本をどんな国にしたいのか、その国家観、ビジョンを4人の候補者全員に語って欲しい。菅首相が発信力や説得力のなさを指摘されて退陣に追い込まれた直後でもある。乾坤一擲の演説で自民党議員、国民の心を動かせるのは誰なのか。誰もが注目する演説となる。「党風一新の会」に参加する3回生議員はこう話す。「今回はギリギリまで悩む議員が多いよ。最後の演説を聞いて決めるという議員がいる、初めての自民党総裁選なんじゃないかな」

 いずれにしてもここまで行方の分からない総裁選は珍しい。期待感か警戒感か。国民的人気か議員の論理か。そしてこの自民党の判断に総選挙で審判をくだすのは、我々国民であることを忘れてはならない。

青山和弘(あおやま・かずひろ)政治ジャーナリスト
1968年、千葉県生まれ。東京大学文学部卒。92年、日本テレビ放送網に入社し、94年から政治部。野党キャップ、自民党キャップを歴任した後、ワシントン支局長や国会官邸キャップ・解説委員を務める。与野党を問わず幅広い人脈を持つ。本年9月からフリーの政治ジャーナリスト。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月26日掲載

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