NHKはネット配信実験へ 民放も含め自分たちの首を絞めることになる?

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 いまや10代、20代の半数がテレビを見ないといわれる中、総務省は「みなさまの」NHKに対し、テレビを持たない人を対象としてネット配信を行う“社会実証”の実施を要請した。

「NHKには技術的な検証のほか、ネット配信の意義やニーズを探ってもらうことになります」(総務省)

 NHKは昨年春から、ネットで番組の同時配信や見逃し配信を視聴できるサービス「NHKプラス」をスタートさせている。ただ、登録できるのは基本的に受信契約者のみ。その点、今回の社会実証は未契約者の利用を前提としており、ネット独自のコンテンツ配信に期待する声もあるものの、「NHKには受信料未払い者をあぶり出せるおまけがつく」といった笑えない風評も聞かれる。

 NHKのネット進出には、何より民放の警戒感と反発は強まるばかりだ。「ネットでの同時配信は民放にとってほぼ未着手。コロナ禍で民放の収入が不安定化する折、受信料収入で潤うNHKにますます先行を許してしまう」という“民業圧迫論”だが、放送ジャーナリストの小田桐誠氏は、

「民放はNHKの肥大化を批判しますが、本音をいえば“ありがたい”部分もあるとは思います」

 と言うのである。

「NHKが先陣を切ってネットで成功すれば、その手法は自分たちの参考になる。しかし、民放はネット配信では従来の地上波で得られたような高額のCM料は期待できず、そこが最大の悩みどころ。やはりまったく新しいビジネスモデルが問われている形です」(同)

 NHKの受信料問題に詳しい早稲田大学教授の有馬哲夫氏は、人々の視聴習慣は簡単に変わらないと見る。

「ネットフリックスやアマゾンプライムなど魅力あるコンテンツ事業体に触れた人たちを、NHKに振り向かせることができるのか。放送業界は許認可に守られた寡占体質でしたが、ネットは実力と資本がモノを言う過当競争の世界。伍していくのは容易じゃありません」

 これまで地上波でNHKに馴染んでいた中高年齢層までネットに移行すれば、小田桐氏の指摘にあるように、放送界がやがて丸ごと「CM収入激安」のネット界に放り出され、商売苦に喘ぐことにもなろう。

「NHKと民放が大同団結して日本版アマゾンプライムのような共通プラットフォームを設け、従量制で番組に課金するような仕組みをつくる以外に生き残る道はないでしょう」(有馬氏)

 ネットに注力すればするほど実入りの少なさに直面して苦しむのはメディア共通の悩み。政府肝煎りの実験で誰も望まぬ未来が開く?

週刊新潮 2021年9月16日号掲載

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