「TOKYO MER」最終回 喜多見幸太だけではない究極の偽悪者「音羽尚」の面白さ

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音羽尚も面白い

 ヤクザ映画ばりに義理と人情の板挟みになっているのが厚労省の医系技官・音羽尚(賀来賢人、32)。この設定も面白かった。赤塚都知事をライバル視する厚労相・白金眞理子(渡辺真起子、52)から、MERに送り込まれ、チームを内側から破壊しようとしたものの、喜多見の理念に共鳴してしまう。

 音羽は本籍地である厚労省への義理と喜多見やチームの仲間への人情の間で苦悩した。白金に命じられ、喜多見の過去も探った。

 第5話で病院内のエレベーターに民自党幹事長・天沼(桂文珍、72)や妊婦と一緒に閉じ込められた際も、すぐには妊婦をケアできず、天沼のお守りをした。天沼は仮病だったものの、官僚は政治家には逆らえない。

 ゲスな政治家・天沼の描き方も抜群にうまい。エレベーター内で天沼が自分だけ助かろうと飛び跳ねたシーンは芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思わせ、嫌悪感を抱かせた。ほかのシーンでの天沼も憎々しい。これまでのドラマ出演では好人物役が大半だった文珍が快演している。

 音羽は天沼とは対象的に典型的な偽悪者だ。既に視聴者全員がMERの真の仲間だと分かっているが、本人はいまだ冷徹な官僚を装っている。

 喜多見に対し、口では「あなたの綺麗事はもうウンザリです」(第8話)などと反発しながら、同じ8話で喜多見が感電し仮死状態になると、懸命に蘇生させた。

 その際の音羽の言葉が泣かせた。

「ふざけんな。ふざけんなよ。勝手にひっぱり込んで。さんざんムチャして。これで終わりか。ふざけんなよ。戻って来いよ!」

究極の偽悪者

 最終回が迫った第10話でも音羽は偽悪者ぶりを申し分なく発揮した。涼香は音羽の上司・久我山局長(鶴見辰吾、56)に騙され、喜多見の服役歴を明かしてしまうが、音羽はそれを自分が話したことにしてくれと涼香に頼む。

「あなたが言ってしまったせいで、私の手柄が奪われてしまった」(音羽)

「そんな……」(涼香)

 説明するまでもなく、すべて音羽の嘘である。喜多見の服役歴の判明により、MERの解体は確実だが、その責任が自分にあると涼香に思わせたくなかった。

 口では「自分の手柄にする」と言いながら、悪者になるのは自分1人でいいと考えた。だから「あなたが話したということは絶対誰にも言わないで下さい」と念押しした。

 音羽はその直後、爆弾が仕掛けられたという医大に喜多見と2人で出向く。ほかのメンバーは喜多見の過去が露見したため、MERの仕事から外れていたが、音羽は喜多見に付いて行く。

「私は監督官庁の官僚としてMERの活動を見届ける義務がありますから」(音羽)

 これも嘘だ。危険が想定される現場に喜多見1人で行かせたくなかった。究極の偽悪者である。

 音羽の判断は正しく、医大ではエリオット椿が仕掛けた爆弾が爆発し、喜多見1人では手に負えなかった。その後、涼香が爆死した。

 最終回ではエリオット椿の爆弾テロが拡大するものの、喜多見は失意のままMER脱退を口にする。音羽も天沼に動きを封じ込まれる。だが、そのままでは終わらないはずだ。

社会問題への言及

 外国人労働者問題(第6話)、コロナ禍による学生の貧困(第10話)など社会問題を盛り込んだのも良かった。

 黒岩勉氏の脚本には視聴者をドラマに引き寄せる要素が散りばめられている。最終回まで積み残された大きな問題もある。赤塚知事の生死だ。

 遊び心にも満ちている。お気づきだろうか。レギュラー登場人物の名前はベトナム人看護師のホアン・ラン・ミン(フォンチー、30)を除き、全てMERが守る東京の地名になっている。

 喜多見(世田谷区)、音羽(文京区)、赤塚(練馬区)、弦巻(世田谷区)、蔵前(台東区)、冬木(江東区)、徳丸(板橋区)、駒場(目黒区)、千住(足立区)。悪党たちもそうである。白金(港区)、久我山(杉並区)、天沼(同)……。徹底している。

 憎たらしいまでによく出来た脚本だ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

2021年9月12日掲載

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