自民党総裁選で清和会は大揺れ 幹部にケンカを売ったプリンスの反乱

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 清和会が大きく揺れている。

 清和会とは自民党の最大派閥で、新聞などでは細田派と書かれる。

 細田博之元幹事長が会長を務めているのでこう書かれるが、事実上の安倍派である。

 自民党所属の国会議員、衆参合わせて383人のうち細田派が96人を占めており、第二派閥麻生派のおよそ二倍の数を誇る。

 党内ではタカ派とされていて、安倍晋三の祖父・岸信介元総理を源流として、福田赳夫、森喜朗、小泉純一郎、安倍晋三、福田康夫という6人の総理大臣を輩出してきた。

 その名門派閥が、今回の総裁選で大揺れしていると言うのだ。

 安倍は総理在任中、岸田文雄を後継として育てようとしてきた。

 岸田は池田勇人元総理を創始者とする名門・宏池会の領袖だが、派閥を超えたいわゆる禅譲という餌をぶら下げられ、安保法制の成立や安倍の靖国参拝の後始末など、岸田自身はあまり乗り気でない行動を、外務大臣や政調会長として取らざるを得なかった。安倍政権時代は、隠忍自重の日々が続いた。

 安倍の病気退陣で緊急避難的に菅が後継となったのは、我こそポスト安倍と任じていた岸田にとって想定外だったろうが、ようやく禅譲に相応しいタイミングがやって来た。そこで岸田は、菅の退陣表明前から早々に出馬表明したのである。派閥は団結して動くことを前提としている。清和会96人と宏池会46人が一枚岩となれば、勝ちは決まったようなものだ。

 菅が退陣すれば、安倍は岸田を支持するだろう……清和会の面々もそう思っていた。それにも関わらず、ここに来て安倍が高市早苗を支持することが判明した。

 あらゆる意味で面食らったのは清和会議員だ。思想信条が安倍と似通っているとはいえ、超タカ派の高市は総裁選で当選する可能性は極めて低い。

 このままでは勝ち馬に乗れない。清和会内には動揺が広がっている。

 そんな中、清和会所属のある「プリンス」が突如、動き出した。

 福田達夫54歳。

 まだ当選三回だが、父は福田康夫元総理、祖父は昭和の黄門と呼ばれた福田赳夫元総理という政界きってのサラブレッドだ。小泉進次郎と関係が深いことでも知られるが、二人を知る人々は異口同音に「福田さんの方が地頭が良い」と答える。

 その福田が7日、主に当選三回以下の議員約70人を集めて、こう檄を飛ばした。「派閥一任にしてしまって永田町の理屈で決めるのではなくて、議員の自主投票の意思というものはしっかりと担保するような総裁選になってほしい。」

 清和会のプリンスが、派閥幹部にケンカを売ったような格好だ。

 福田が檄を飛ばした背景には、父・康夫以来の安倍への対抗心があるとも言われる。また親しかった進次郎から距離を置こうとしているようにも見える。

 70人の若手は派閥横断的に集まっているので一致した行動をとるわけではないが、プリンス福田の発言は清和会幹部から見れば、若手の反乱にも見えて不快なものだ。

 また、タカ派で知られる清和会だが「高市さんはライト(右)すぎて、とても乗れない」と語る所属議員もいる。これらのことから、総裁選の「一回目」の投票で清和会が一致団結して一人の候補を推す可能性はなくなった。

 だが、これはあくまで「一回目」のことである。総裁選の決選投票の可能性を忘れてはならない。この時こそ、派閥の力は本領を発揮する。

 ある派閥の幹部は以前、「ピーピー言っているヒヨコをどうやって餌でもって、こっちだよと誘導するかが勝負だ」と言っていた。

 ヒヨコとは若手議員のことだ。総裁選は一回目の投票で過半数を獲得する候補がいなければ、上位二人による決選投票が行われる。二回目の投票権を持つのは国会議員と各都道府県代表だが、制度上、議員の力でほとんどが決まる。そして、この決選投票では、派閥無視の投票は出来ない。

 と言うのも、派閥が存在する大きな意味の一つは人事であり、大臣を出すときに総理・総裁に対して自派の人材を猛プッシュする。そう、ヒヨコの餌とはポストだ。ポストに就かなければ、政策は実現できない。福田のように選挙の心配がない議員は理想論を言えるが、他の若手や中堅は目の前に餌をぶら下げられて食わない勇気があるだろうか。

 下馬評通りに一回目の投票で高市が3位に沈み、岸田・河野の決選となれば、多少の取りこぼしはあっても、清和会の票はまとまって岸田に流れる。そんな予測も永田町では出ている。今回の総裁選は派閥分裂と言われながらも、最後は派閥がモノを言うと、私は見ている。(了)

武田一顕(たけだ・かずあき)
元TBS北京特派員。元TBSラジオ政治記者。国内政治の分析に定評があるほか、フェニックステレビでは中国人識者と中国語で論戦。中国の動向にも詳しい。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月10日掲載

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