「オモウマい店」がバラエティで一人勝ちの理由 取材Dは「まるで勉強熱心な受験生」

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食+笑い

 一般市民が主役であるところは同じでありながら、どうして「オモウマい店」ばかりウケているのだろう。その理由の1つは「食」を絡ませたことにあるはずだ。

 食はテレビ界にとって永遠のテーマ。だが、食べ歩きや大食いなど既に企画は出尽くしたと思われていた。けれど「オモウマい店」は激安の店、爆盛りの店とその店主を登場させ、食を新たな形でエンタメ化することに成功した。

「食番組なら、ほかにも食べ歩きや大食いなどがある」という指摘が聞こえてきそうだが、「オモウマい店」にはほかの食番組や「一軒家」には乏しい要素がふんだんに盛り込まれている。笑いだ。

 若い世代はお笑いを好む。お笑い番組を支えているのは若い世代と言っても過言ではないくらい。例えば8月27日放送のフジ「人志松本の酒のツマミになる話」は世帯が7.9%、個人全体が4.5%とどちらも平凡な数値だったが、コア視聴率は5.9%とかなり高い。「一軒家」の2倍近くである。お笑いの要素がある番組は総じてコア視聴率が高いのだ。

「オモウマい店」は新趣向の食番組とお笑いの要素を合体させることに成功した。だからコア層を取り込めた。

 視聴者を笑わせてくれるのは番組の主役である飲食店の店主ら。その代表的人物は4月27日放送以降、たびたび登場しているうなぎ屋「野沢屋」(群馬県太田市)の店主である。どんな場面でも「エキサイティング!」と咆哮する。

 無頼派らしく、営業中なのに堂々とビールを飲む。店内の壁には自分で手書きしたカタカナ英語がビッシリ。単語をおぼえるためだそうだが、まるで耳なし芳一だ。リポートに訪れた本田望結(17)が店主の迫力にビビっているのがおかしかった。

 ただし、ちょっと心配があった。カメラの前で自由に振る舞った店主が、後で番組出演を後悔するのではないかと思ったのだ。放送後の客の反応も気になった。

 だが、余計なお世話だった。店主は家族全員で自分が出ている番組を観て高笑い。店も千客万来。それを見た司会のヒロミ(56)は「良かったなぁ」と感慨深げだった。

 いわゆる素人いじりの番組は局側だけが得をすることが多い。一般市民を視聴者に見せ、笑いを取るが、市民側は自分のほんの一部分しか見せられないので、誤解されがちなのだ。

 そうなってしまうと視聴者側も後味が悪い。だが、この番組は違った。取材ディレクターたちが店主らに長期の密着取材を行い、その人間性まできちん伝えるから、誤解が生じにくい。番組と店主らがウインウインの関係になるので、観る側も気分が良い。

 この番組を制作している日テレ系列の中京テレビ(名古屋市)の番組制作スタッフによると、取材ディレクターたちは、「まるで勉強熱心な予備校生」で、若くて真面目なのだそうだ。だから店主たちに信用され、瞬く間に打ち解けるのだろう。

 定食が全て500円か600円の「味の食卓」(茨城県土浦市)の女将は若い取材ディレクターに対し、「親戚になっか」と声を掛けた。8月17日放送分だ。こんな番組、見たことがない。「一軒家」でもここまで打ち解けない。

 さらに女将は「(取材ディレクターの)結婚式のために50万円貯めておくから」と言った。「親戚に」というのは社交辞令ではなかった。F1層でなくてもグッと来る場面だったのではないか。

 ヒロミと進行役のバイキング・小峠英二(45)による取材ビデオへのツッコミも愉快。2人が「オイオイ(この値段で)大丈夫かよ」「(爆盛りが)やり過ぎだよ」と軽妙に言葉を挟む。2人のトークによって生まれる笑いもコア層を引き付けているはずだ。

 10月改編でも新たな人気番組が生まれるか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月7日掲載

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