WHOは中国離れでも…米国は「武漢ウイルス研究所」流出説に中途半端な幕引き

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「中味のない報告」

「米情報機関は新型コロナウイルスの起源について再調査を行ったが、『自然発生説』と『中国武漢ウイルス研究所からの流出説』の間で結論を下すことができなかった」

 関係者の証言をもとに、8月24日付ワシントン・ポストはこのように報じた。

 5月26日に、「新型コロナウイルスの起源について決定的な結論を出せるように2倍の努力を傾けて情報を収集・分析した結果を90日以内に報告せよ」と、バイデン大統領は指示していたが、8月27日、「中国に対して情報公開を求め続ける」との声明を出した。

 世界の注目が集まる中で、新型コロナウイルスの起源については、「中味のない報告」が提出されることはある程度予想されていた。8月12日付CNNも、「情報機関内では依然として2説で意見が分かれており、報告書の内容には驚くような発見はないだろう」と報じていた。

 納得のいかない報告の内容となった理由のひとつは、起源解明には専門の科学者の知見が不可欠であり、海外の情報の収集を主な任務とする情報機関のスタッフには荷が重い任務だったからではないか、との指摘がある。中国から詳しい情報が得られなかったことも一因である。

 結局、報告は動物からの感染なのか、研究所からの流出かを巡る議論の沈静化にほとんど役に立たない内容だったが、ホワイトハウスとヘインズ国家情報長官は提出期限を守ることに強くこだわったという(8月25日付CNN)。このことからも、実はバイデン政権がこの問題の幕引きを図ろうとしていることがわかる。与党の民主党も問題自体への関心が低いことから、目玉である予算案の審議やアフガンからの撤退問題で忙殺されているバイデン政権にとって、「新型コロナの起源解明」にこれ以上関わっていられる余裕はない。

 しかし米国民の半数以上が研究所流出説を信じており、野党共和党も研究所流出説に強い関心を示していることから、新型コロナの起源解明は、来年の中間選挙に向けて再び政治問題化する可能性がある。

731部隊をプロパガンダに

 米国の煮え切らない対応に胸をなで下ろしているのは中国である。

 米情報機関報告書の公表を控え、「不当に中国を非難したい人々は、中国からの反撃を受け入れる覚悟をした方がいいだろう」と警告するなど極めて神経質になっていた。

 さらに中国は、戦いの矛を収める気配はない。

 在ジュネーブ中国代表部は25日、世界保健機関(WHO)に対し、「新型コロナウイルスの起源を明らかにするため、米メリーランド州のフォートデトリック陸軍伝染病研究所と米ノースカロライナ大学を調査するよう求めた」ことを明らかにした。中国側の主張は、

「ノースカロライナ大学のベリック教授は2008年にSARSに類似するウイルスを人工的に合成する技術を開発し、ベリック教授の教え子の1人がフォートデトリック研究所で新型コロナウイルスをつくり出した」

 というのである。中国側の一連のフォートデトリック研究所批判には気になる点がある。中国側は、「米軍は731部隊の主要人物を赦免する代わりに機密情報を入手し、これをもとにフォートデトリック研究所で生物兵器の開発が進んだ」と主張するため、第2次世界大戦中に中国黒竜江省ハルピンで活動していた731部隊の人体実験に関する文書を15日に公開しているからだ。公開された文書の内容は既知のものばかりであったことから、幸いにも中国側のプロパガンダは不発に終わっているが、日本にとってもこの問題はけっして「対岸の火事」ではないことを思い知らされる動きである。

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