尾身茂会長にコロナ医療体制の強化は荷が重過ぎる 政府が参考にすべき英国の取り組み

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1年半経っても日本の医療体制は脆弱

 厚生労働省と東京都は8月23日、改正感染症法に基づき都内の全医療機関に対し、新型コロナウイルス患者の受け入れや医療従事者の派遣を要請した。医療体制の逼迫を緩和するため、病床を現在より1割多い7000床にすることが目的である。

 改正感染症法では医療関係者に病床確保を要請し、正当な理由なく応じない場合には病院名を公表できるが、実効性に問題がある。大阪府は既に同様の要請を行ったが、病床の確保はほとんど進まなかった。厚生労働省が「正当な理由」と認めている「看護師の不足」などを理由に挙げて、ほとんどの病院が協力しなかったからである。吉村大阪府知事は「法律の限界」だと述べた。

 新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、政府の対策を主導してきたのは、「新型コロナウイルス感染症対策分科会(分科会)」である。感染制御や公衆衛生の専門家が中心となって、感染拡大の初期段階に「クラスター対策」を立案し、「三密回避」という行動変容を訴えることで、日本での被害を最小限に食い止めてきた。

 これらの方策は、備えが十分ではなかった日本の医療体制を補うための「時間稼ぎ」の要素が強かったが、パンデミックから1年半が経っても日本の医療体制は脆弱なままである。医療崩壊の危機が叫ばれる中で、分科会は「国民の行動制限を求める」という従来の対策に固執するばかりで、コロナ対策の最重要課題となった「医療体制の強化」についての具体的な提言は聞こえてこない。

 経済の専門家として分科会に参加する大竹文雄大阪大学特任教授と小林慶一郎慶應義塾大学教授らは17日、このような提言をした。

「秋以降に社会経済活動の規制を緩和するため、重症者の受け入れ能力を2倍以上、できれば3倍ほどにする。このため速やかに医療提供体制の選択と集中を進めるべきである」

 分科会とは別に緊急のメッセージを発出したのは、「社会経済活動への規制を強化することは、失業率の上昇や貧困の増加など失うものが多すぎる」との危機感からだ。

 医療体制の強化策として挙げられているのは(1)公的病院を中心に積極的な受け入れ態勢を構築し、民間病院と比較して低い公的病院の給与水準を改善する、(2)看護師などの医療スタッフ不足の問題は国が一括して対応する、ことなどである。

医療体制の強化に寄与しているとは言えない

 大竹氏らは、「長期にわたる社会経済活動制限の負の影響などを考慮すると、現在の医療体制を所与とした感染症対策のあり方を、再検討すべき時期である」と訴えているが、尾身茂分科会長には耳の痛い話だろう。

 尾身氏は2014年から地域医療機能推進機構の理事長を務めている。

 地域医療機能推進機構は厚生労働省が所管する独立行政法人であり、国立病院機構とともに旧国立病院など公的医療機関を傘下に置いている。全国に57病院、約1万4000床を有しているが、コロナ病床は816床と全体の5.7%に過ぎない(7月末時点)。東京に限ってみれば、1455床のうちコロナ病床は158床と10.9%であり、医療体制の強化に寄与しているとは言えないのだ。

 地域医療機能推進機構法第21条は、「公衆衛生上重大な危害が生じるなど緊急の事態に対処する必要があると認めるときは、厚生労働大臣は機構に対し、必要な業務の実施を求めることができる」と規定しているが、「地域医療機能推進機構傘下の医療機関をコロナ専門病院にすべきではないか」との質問に対し、田村厚生労働大臣は「いろいろな問題があり、検討中である」と煮え切らない回答をしている(8月23日付東洋経済オンライン)。法律上の規定はあっても医療体制の強化はお願いベースでしかできないのが、日本の実情なのである。

 コロナ対策における尾身氏のこれまでの貢献を否定するつもりはないが、「医療村」の一員である尾身氏には、「医療体制の強化」という課題は荷が重すぎるのではないだろうか。

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