SBI北尾社長の“ベンチャー乗っ取り”失敗 その手口とは

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 SBIホールディングスの北尾吉孝社長(70)は、論語にならって投資先の志を「観る」ことを心掛けているという。ならば、ベンチャー企業から“乗っ取り”と批判された己が行為を、さて、どう総括するだろう。

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「7月20日付でSBI側に内容証明を送りました。当社が16億円の借入金を返済するという書面です」

 そう話すのは、サプリメントの製造を行うベンチャー企業、ネオファーマジャパン(東京都千代田区、以下ネオ社)の河田聡史社長だ。これを受け、SBI側はネオ社の工場(静岡県袋井市)の競売を取り下げるほかなくなった。

 両者のトラブルの背後には、注目のアミノ酸の存在がある。

「ネオ社は『5―ALA』というアミノ酸を安定的に製造できる技術を持っています。その原薬をSBIの子会社に供給する契約が3年前に結ばれました。年間取引額20億円×7年間という内容です」(関係者)

 5―ALAは細胞内のミトコンドリアで生成される物質で加齢とともに減ってゆく。もともと老化防止物質として注目されていたが、昨年10月、長崎大学の研究チームが新型コロナウイルス感染抑制効果を見つけたことで注目を浴びた。北尾氏も共著で『ALAが創る未来』(PHP研究所)という本を出すほど惚れ込んだ物質で、どうやら北尾氏はこれを工場ごと手に入れようと目論んだらしい。

 そこで目をつけたのが、ネオ社の財布事情だった。

「ネオ社の親会社がある不祥事に巻き込まれ、ネオ社は資金繰りが悪化。SBIに支援を要請し、製品を前倒し購入してもらうことで、当面の資金繰りを乗り切ることになりました」(同)

新事業パートナー

 ところが、間もなくSBI側の態度が豹変する。品質に難癖をつけ、ネオ社が引き渡したはずの5―ALA原薬を「納品されていない」と主張。次いで原薬の代金約3億円の返還を請求し、3月には工場の仮差押えをかけてきた。

 不可解極まる動きだったが、狙いはすぐに判明した。

 同工場には清水銀行の融資16億円の担保として抵当権が設定されていた。仮差押えから8日後、その約16億円の債権がSBI側に譲渡されたのだ。抵当のついた工場に仮差押えを申し立てたのは、今や地銀に最も影響力のある北尾氏率いるSBI側だ。かくして清水銀行の債権を不良債権化させ、不良債権処理という大義をつくったうえでSBI側は大口債権者の地位を手に入れた。これぞ乗っ取りそのものではないか――。関係者はそう受け取った。

 資本金3億円のベンチャーが16億円の借金を消すのは容易ではない。競売で工場を失う危機が迫る中、冒頭で触れたようにネオ社は一括返済を実現させた。7月20日には新事業パートナーとの5―ALAの日本総代理店契約も発表している。

 前出の河田社長が言う。

「16億円は事業の利益や新しいパートナーからの借り入れで捻出しました。5―ALA事業を支配しようとするSBI側の思惑は外れたということです」

 この件をSBI側に聞くと、次のように回答した。

「SBIグループ各社は、法令に従った対応を行っており、何ら非難されるべき点はありません」

 見小利則大事不成(小さな利益にこだわると大事が成し遂げられない)――北尾氏が好きな論語の言葉だ。

週刊新潮 2021年8月12・19日号掲載

ワイド特集「ゴールデンスコア」より

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