地銀再編に暗雲…山口FGのお家騒動で“天皇”吉村猛会長が突如、解任された全内幕

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 菅総理の肝煎りで進められてきた「地銀再編」に大打撃を与えかねない事態である。全国の地銀関係者がいまだに動揺を隠しきれないのは、山口銀行を傘下に擁する「山口フィナンシャルグループ(以下、山口FG)」の吉村猛前会長(61)が突如解任された「お家騒動」だ。

 日銀のマイナス金利政策の長期化や、地方に顕著な人口減少によって、かねてより地銀経営は苦境が伝えられてきた。そうした状況下にあって、地域商社の設立、IT企業との連携といった独自の手法を次々と導入し、評価を高めてきた吉村氏。そんな「地銀改革の旗手」を襲ったのは、実績の不透明な外資コンサルタントへの高額報酬や、女性問題を指弾する「内部告発文書」だった。

 吉村氏のグループ最高経営責任者(CEO)と会長職からの解任が発表されたのは6月25日――。

 この日の夕刻に始まった山口FGの椋梨敬介社長の記者会見には、多くの地元メディアが詰めかけた。だが、椋梨氏は社内調査が進行中であるとして、吉村氏の解任理由については「社内合意を得ないまま新規事業を進めた」という要領を得ない説明を繰り返すにとどまった。同日午前に行われた株主総会では、吉村氏は99%の株主からの賛成を得て続投を任されていただけに、会長解任はまさに寝耳に水の出来事である。

 だが、山口FG幹部によれば、

「株主総会後に開かれた取締役会で、会長の続投に賛成したのは吉村本人だけだった」

 吉村氏は山口銀行徳山支店長を皮切りに、常務取締役東京本部長、山口FG傘下のもみじ銀行、北九州銀行の取締役や山口銀行の会長などを歴任し、山口FGの「中興の祖」と呼ばれる人物で、地元選出の安倍晋三前総理とも懇意とされる。

 長年、山口FGに君臨し続けた「天皇」の解任劇は、今年4月、吉村氏を除く取締役や幹部行員に届いた一通の内部告発文書に端を発する。

 この文書には、吉村氏が2016年に会長・CEOに就任する以前から、特定の女性行員を愛人として囲っていることや、架空の投資話で顧客から約19億円を集めた第一生命の元社員の女性と徳山支店長時代に極めて親密だったことに加え、東京の外資系コンサル会社「オリバーワイマングループ」に実態不明の多額のコンサル報酬を支出していることなどが指摘されていた。

「ただの怪文書にしては内容が詳し過ぎる。内部の支店長以上の人間が書いたものだ」と事態を重くみた取締役らは、即座に社内調査チームを立ち上げた。その結果、第一生命の女性や、愛人とされる女性行員との関係は傘下銀行の資金の流れからは立証できなかったが、実態不明のコンサル会社への支出、約5億円については確認された。この時点で、社外取締役は吉村氏の会社の私物化を強く疑うこととなったのである。

 だが、当の吉村氏は自分に厳しい視線が注がれているのを知ってか知らずか、5月に臨時取締役会を招集。しかも、お膝元の山口県下関市ではなく、なぜか東京で開催し、一部の取締役はオンラインでの参加となった。先の関係者は、「吉村が取締役会の席上で、なんの根回しもなくいきなり“新銀行”の設立案を打ち出したので驚愕してしまった」と振り返る。

なんじゃ、このふざけた提案は……

 吉村氏の突然の提案は、消費者金融大手アイフルと協力し、リテール(個人向け融資)に特化した新銀行を設立する構想である。社外取締役が衝撃を受けたのは、その内容に他ならない。くだんのコンサル会社の元代表が“新銀行”の頭取に就任し、報酬も数千万円以上と既に決められていたのである。有価証券報告書や関係者によると、山口FGの社外取締役らの報酬は数百万円。その場に居合わせた取締役たちは一様に、「この報酬額は法外過ぎる。なんじゃ、このふざけた提案は……」と呆れたという。

 結局、この案は賛同が得られずお蔵入りとなったが、吉村氏とこのコンサル会社には「度が過ぎた蜜月関係にある。このまま吉村にトップを続けさせるわけにはいかない」という空気が取締役らに強く共有される。コンサル会社の元代表は地銀経営に関する著作があり、吉村氏と密接な関係だったが、その助言が山口FG傘下の銀行で業績に影響した形跡は確認できていない。

 吉村氏の新銀行構想に関しては、金融機関を監督する金融庁の耳に入り、「コロナ不況で多くの国民が苦しんでいるなか、サラ金業者と個人向けローンに特化した銀行を設立するとは何事か!」と怒りの声が噴出したという。

 山口FGは目下、吉村氏とこのコンサル元代表の関係を中心に調査しており、秋ごろに調査結果を記者会見で説明する方針だとみられる。

 ただ、金融庁や東京証券取引所、山口FGの一部には株主や傘下の行員、取引先に対する説明責任を果たすには「第三者委員会」での調査が適切という意見も根強い。一方で、ある金融庁OBは、

「金融庁が“優等生”扱いしてきた山口FGに強く言いにくい雰囲気はあったかもしれない。森信親元長官が、あんなに褒めていたスルガ銀行がかぼちゃの馬車をめぐる不正融資で大炎上したことは記憶に新しい」

 と指摘する。現段階では、金融庁は「自浄作用に期待する」とのスタンス。山口FGに特別検査が入り、業務改善命令を発出する可能性は低いとみられるが、社内調査でどんな爆弾が飛び出すのかは現状では誰にも分からない。

 有力地銀のトップはその県では絶大な力を持つことから「殿様」と呼ばれる。豪腕で知られた吉村氏の転落劇の行く末に、全国の「殿様」が気を揉んでいるかもしれない。

加藤丈/金融ジャーナリスト

デイリー新潮取材班編集

2021年8月23日掲載