「中田翔」巨人に電撃トレード “清原化”を防ぐための「二人のキーマン」

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ホームランが出やすい球場

 巨人は8月20日、日本ハムから中田翔を無償トレードで獲得したと発表した。中田が同僚選手に対する暴力行為で出場停止が発表されたのが11日。日本ハムの栗山英樹監督が他球団への放出を示唆するコメントを出したのが16日という点を考えると、驚くべきスピードであり、これぞ電撃トレードだ。

 移籍に伴って、中田の出場停止処分は解除された。すぐに一軍の試合にスタメンで出場することは考えづらいが、巨人は、交換要員なしでパ・リーグを代表する強打者の補強に成功したともいえる。

 中田の去就を巡っては、FA権を獲得した2018年オフ、そして出場停止となった今回も様々な憶測が飛び交っていたが、「収まるべきところに収まった」という見方もできる。

 まず、大きいのが巨人のチーム事情だ。阿部慎之助の引退後、ファーストの絶対的なレギュラーは不在の状態が続いていた。今季は、既に退団したスモークと、今年で39歳となる大ベテランの中島宏之が主に起用されていた。中田が、本来の状態を取り戻せば、ファーストに固定される可能性は極めて高い。

 巨人のメンバー構成を見てみると、野手の主力には、丸佳浩や梶谷隆幸、ウィーラーといった、いわゆる“外様”が多く、他球団の主力を毎年のように獲得してきたチームの土壌がある。

 また、中田と丸は同学年で、高校からプロ入りしたというキャリアも共通しており、こうした点でもチームに溶け込みやすい環境と言えそうだ。さらに、本拠地の東京ドームはホームランが出やすい球場であり、あと一歩のところでホームラン王のタイトルを逃してきた中田にとって“追い風”となりそうだ。

風当たりの厳しさは続くが……

 ここまではプラス面を挙げたが、もちろん不安材料はある。2017年以降の中田の成績を見ると、隔年での活躍となっており、今季は極度の不振に陥っている。今年で32歳と、年齢的にも選手としてもう一花咲かせられるかの分岐点であるが、プレーぶりを見ていると、体力的な衰えとともに、成績が下降の一途を辿る可能性は否定できない。

 そして、最も気になるのが、中田のキャラクターだ。今回の不祥事や風貌からはヒール的な印象が強いが、発言を聞くと意外に“弱気な面”が見え隠れする。イメージとしては、かつてFAで巨人に移籍して苦しんだ清原和博とどうしても重なってしまうのだ。

 もちろん、二人の入団の経緯は全く異なるが、中田の実績を考えると、周囲やファンからの期待はどうしても高くなり、そのプレッシャーに苦しむ姿も容易に想像できる。今シーズンのようなプレーが続くようであれば、ファンやメディアのバッシングが強くなり、日本ハム時代のようにチームメイトに悪影響を及ぼすことも十分に考えられる。

 では、中田がこうした“悪循環”に陥らないためには何が必要なのだろうか。結論から言うと、中田に依存しなくても、戦えるチーム状況を周囲が作り出すことがポイントとなる。そのキーマンは、坂本勇人と岡本和真の「生え抜きのスター」だ。

 坂本は中田の1学年上で、侍ジャパンでもともにプレーした経験があり、中田の“お目付け役”としてはこれほど適任な選手はいないだろう。一方、岡本は選手のタイプとしても、求められる役割としても中田と重なるところがある。岡本がしっかりと主砲として活躍し続ければ、中田に対する相手チームのマークも軽くなる。中田に「巨人の主砲」という看板を背負わせるのではなく、ある程度、負担が軽い立ち位置で、のびのびとバットを振らせた方が、彼の良さも生きるはずだ。

 暴力行為という不祥事の内容を考えると、今後も風当たりの厳しさは続くだろうが、「打点王3回」という実績と規格外のパワーはやはり魅力的。首脳陣と周囲が働きやすい環境を作り、その期待に中田が応えることができれば、巨人にとって大きな戦力となる。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月21日掲載

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