DaiGo、張本勲…「辛口」男たちの危うさ おじさんこそ愛嬌が必要な時代?

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 メンタリストのDaiGo氏、人の心は読めても時代は読めていなかったのか。「激辛」と称したホームレスに対する差別発言で大炎上。謝罪に追われている。一方で「喝!」と上から目線でアスリートをジャッジする張本氏も、女子ボクシングに対する軽率な発言と意味不明な釈明で猛批判を浴びた。女子ボクシングをからかって、ネット上で殴られるとは皮肉なものである。

 そもそも、「毒舌」「辛口」の時代はとっくの昔に過ぎていた。有吉弘行さんが品川祐さんに「おしゃべりクソ野郎」と毒づいて再ブレイクした「おしゃクソ事変」は2007年。マツコ・デラックスさんが「5時に夢中!」で世に出たのは2005年である。その少し前にデヴィ夫人や梅沢富美男さんの歯に衣着せぬ物言いが人気を博しており、辛口タレントは一大ブームとなった。しかしそれから、10年以上経っているのだ。

 マツコさんや有吉さんらは今でもスターだが、理由は辛口だからではない。むしろ時代の変化を読んで、辛口の濃度を減らす進化を遂げたからだろう。それはデヴィ夫人や梅沢さんも同様である。怒ったり叱りつけたりするより、バラエティで共演者と一緒に笑っている場面を多く見るようになった。梅沢さんに至っては、「プレバト!!」で俳句の先生に怒られている始末である。

 DaiGo氏は、彼らの変化をだらしないと見ただろうか。稼ぐ力があれば、激辛な物言いをしようとファンはついてくるものだと。ただ、激辛にもルールがある。激辛を味わいたい相手に差し出すのはサービスでも、関係のない第三者の口に突っ込むのはただの暴力だ。今回は彼の視聴者ではなく、ホームレスや生活保護受給者という全く関係のない相手にぶち込んだ。涙の謝罪までの一連が彼のビジネスだったとしても、品のないやり方であることは否めない。

 メンタリストに対して釈迦に説法だが、「人となりを見るにはその人の友人を見ろ」とよく言われる。今回の炎上に対し、親交のあるホリエモン氏やひろゆき氏、マネーの虎・南原竜樹氏らは苦言を呈す動画をアップした。商売上手とも言えるし、「友人」のトラブルをネタに再生回数を上げる計算も見える。彼らもまた、空気を読まない発言で有名になり、時代の寵児となった面々だ。そりゃあDaiGo氏も、納税額さえ高ければ勝ち、毒を吐けばより稼げる、という価値観になるのかもしれない。

 タレントとしても活躍する末弟・松丸亮吾氏は、「今度会ったら絶対に論破するまで(兄を)怒り続けます」と謝罪ツイートをしている。兄の不始末にスピーディーに対応し、カジュアルな印象に薄めていこうとする姿勢はさすがだ。が、家族間でも「論破」とか言うのか、と少しびっくりしてしまったのも事実である。

稼ぎの良さより育ちの良さ? 愛される「ボンボン」オジサンたちの愛嬌と強さ

 それでも辛口という持ち味を貫くには、「辛口で稼いでやるぜ」という匂いを出したらダメだ。これはマツコさんや有吉さんにも通じるだろう。DaiGoさんの周辺と真逆だが、オンラインサロンやノウハウ商材には一切手を出していない。他人に対する毒舌でのし上がったというアウトローな出自を自覚し、冷静さと自戒を失わない。帯番組のMCでありながらも、年末に持ち金をすべてギャンブルに突っ込むという、坂上忍さんにもあてはまる。

 むしろ今、オジサンたちに求められているのは辛口ではなく愛嬌ではないだろうか。そこで参考になるのが、「ボンボン」たちだろう。たとえば石原良純さんと長嶋一茂さんだ。有名すぎる父に比べ、イロモノ扱いされていた時期も長い。でも今や、彼らの偉そうな物言いは実にテレビ的で、重宝されている。短気ですぐ言い返すが、「論破」という印象は受けない。そこには論理がないからだ。自分のワガママを通したいというボンボンっぷりだけで、相手を論破してやりたいという嗜虐心はさほど見えない。

 理屈が無くって感情がダダもれ。実にわかりやすい。いわば、スキだらけ。でもそのスキこそが、彼らならではの愛嬌として作用しているように見える。お坊ちゃんはこれだから、と良くも悪くも思わせることには成功している。自分の欲に忠実だが、執拗なマウンティングをすることはない。育ちの良さゆえのおおらかさととらえることもできるかもしれない。

 ちなみに良純・一茂ペアと組むことも多いのが歌手のDAIGOさんだ。こちらは名前違いでとんだとばっちりを受けているが、まさに芸能界随一の生粋のお坊ちゃん。毒舌どころか温厚そのものの彼だが、ちょっと無理のある「DAI語」や天然ボケなエピソードが好感を集めている。妻の北川景子さんと宝塚鑑賞をしたり、BL漫画家として有名な姉の長電話につきあったり、家族思いのエピソードも多い。氷室京介さんやHYDEさんなど、音楽業界のレジェンドたちからも可愛がられている。他人の心を操ろうという邪念がないからこそ、他人の心を動かすボンボンたち。オジサンこそ愛嬌が求められる今、稼ぎの良さより育ちの良さ、「論破」より「ウィッシュ」。DaiGo氏の周りにも、DAIGOさんみたいな友達がいたら少しは変わっていたのかもしれない。

冨士海ネコ

2021年8月19日掲載

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