【韓国】王から庶民にまで愛された犬肉食が廃れ、鶏肉食が盛り上がってきた理由

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日本の統治時代に生まれた参鶏湯

 韓国では王から庶民にまで愛された犬肉食が廃れ、参鶏湯に代表される鶏肉食が盛り上がってきた。その理由について、在韓広告プランナーの佐々木和義氏が綴る。

 韓国で精肉価格が上昇しており、なかでも鶏肉の高騰が著しい。1年前と比べて豚肉は5.7%、牛肉は8.9%、そして鶏肉は22.1%も値上がりした。新型コロナウイルスの影響による流通コストの上昇に猛暑が追い討ちをかけている。

 2021年7月30日付の農林畜産食品部の報告によると、鶏は27万1949羽、豚は7184頭、鴨は2510羽などが猛暑の影響で死んだという。また、食品スーパーの関係者は、豚と牛が暑さで痩せたことから1頭あたりの重量が減って、全体的に値上がりしたと話している。

 韓国では7月から8月の三伏(夏至以降の3つの庚=かのえの日の総称)に合わせて鶏肉を食べる人が多い。夏至後の3番目の日を初伏、4番目の庚の日を中伏、立秋後の最初の庚の日を末伏といい、夏バテ防止に「参鶏湯(サムゲタン)」を食べる習慣がある。日本で夏の土用の丑の日に鰻を食べるのと、起源は違うものの似たような風習だ。

 参鶏湯は日本の統治時代に生まれた。統治政府が鶏卵を生産するため、農村に養鶏を奨励。富裕層がその鶏肉と高麗人参を一緒に煮込んだのが始まりで、1960年代に料理法が確立して「参鶏湯」と名付けられた。

 参鶏湯が三伏の料理として定着したのは、1990年代から2000年代にかけてである。かつて、牛肉を煮込んだユッケジャンも食されていたが、三伏の主役は、実は犬肉のスープだった。

ソウル五輪で下火に

 朝鮮半島では仏教が国教だった高麗時代は犬食を厭う人もいたが、仏教を迫害した朝鮮時代、犬食文化が広がった。犬食を好む高官に犬肉を献上して出世した官吏や高官が犬肉レシピを伝えた記録などがある。仏教徒は犬食を嫌ったが、カトリック教徒は好んだという。教会のバザーなどで提供され、布教のために密入国した西洋の神父にも牛肉と偽って犬肉が提供された。朝鮮のカトリック神父は、神学校ではじめて口にして以降、犬肉を食べるようになったとされている。

 もちろん犬肉は日本でも食べられていた。仏教思想に由来する犬食タブーから支配階級が食べることはなく、庶民や奉公人が「犬追物」で死んだ犬などを口にしていた。

「犬追物」は柵のなかに放った犬を馬で追って矢を放つ武士の鍛錬法で、犬が傷つかないように工夫された特殊な矢で撃ったが、当たりどころが悪くて死ぬ犬もいた。その犬の肉を被支配階級が食べていたわけだが、太平の世が続いた元禄時代に「犬追物」は廃れ、犬公方こと徳川綱吉が発令した「生類憐れみの令」も相まって、日本人が犬肉を食べることはなくなった。

 話を朝鮮半島に戻すと、王から庶民まで好んだ犬食はソウル五輪(1988年)を前に動物愛護の観点から国外から批判を浴び、1984年の段階でソウル市では犬肉の販売が禁止されることになった。犬は食べるものというよりはむしろペットとみなされるようになり、実際、犬を飼う人たちは増え始めた。

 相前後して韓国に進出したKFC(ケンタッキー・フライド・チキン)が定着する。冗談のような話だが、KFCをコリア・フライド・チキンと勘違いした人たちはかなりの数に上ったという。旅行先の日本や米国でKFCの看板を見た人たちが、「KFCが日米に進出している」と狂喜し、応援したのだ。

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