中国語の質問が理解できない中国人メダリスト、100台以上の人工降雪機…北京冬季五輪は何が問題なのか

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英国議会下院で北京五輪のボイコット決議案

 コロナ禍の東京夏季五輪は8月8日に閉会した。

 依然としてパンデミックが続く中で、半年後の来年2月4日から開催される北京冬季五輪に世界の関心が集まりつつある。

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことを目的に選手を始め大会関係者の活動範囲を制限し、外部の人間との接触を遮断する「バブル方式」を採用した東京五輪だが、北京五輪ではどのような対策が講じられるのだろうか。

 中国当局は「ウイルスを封じ込めることが最優先事情である」ことを明確にし、東京大会をはるかに上回る徹底した対策を行おうとしている。中国当局は7月30日、大会関係者との接触を遮断するため、39のオリンピック会場のデザインを変更することを明らかにした。これに加えてウイルス対策のための最新テクノロジーを導入することなどで開催国の国民と大会関係者が共に満足がいく安全なオリンピックが開催できるとしている。

 しかし、権威主義体制の下で効果的な措置を実施できる中国はコロナ対策に自信を持っているものの、自国の人権問題等に対する国際社会の批判には手を焼いている。

 中国国営メディアは開催まで半年を切った北京冬季五輪の宣伝に乗り出しているが、欧米諸国では政府代表団を北京五輪に派遣しないよう呼びかける、いわゆる「外交的ボイコット」の動きも広がる。

 EU議会は7月8日、中国政府が香港、チベット、新疆ウイグル自治区をはじめとする国内における人権問題への検証を可能にするなど事態が改善しない場合、政府代表団の出席を拒否するよう求める決議案を採択した。英国議会下院も7月15日、北京五輪のボイコット決議案を与野党の合意で可決した。EUと英国議会の決議に法的な拘束力はないが、「北京五輪に協力するな」とする強力な政治的メッセージとなっている。

 米国では連邦議会の超党派グループが7月27日、コカコーラ、VISA、インテルなど北京五輪の公式スポンサーを呼んで公聴会を開き、「スポンサー企業は中国政府による体制の宣伝を支援している」などと批判した。

機械のように練習をさせてきた結果か

 8月7日に公表された世論調査によれば、「人権問題を理由に中国は冬季五輪を開催すべきではないと考えるか」との質問について、49パーセントの米国人が「そうだ」と回答したという。

 国際的な人権擁護団体であるヒューマン・ライツ・ウォッチは、「『2008年の北京五輪は人権などの面で前向きな変化をもたらす』との期待は裏切られた。13年後の中国では1989年の天安門事件以降で最悪の人権侵害が起きている」とした上で、「160以上の人権団体が国際オリンピック委員会(IOC)に対して中国での開催を撤回するよう求めている」ことを明らかにしている。

 これに対しIOCは、開催国の政治制度を変更できないことを理由にこの要請を拒んでいるが、アフガニスタン侵攻を理由に西側諸国が1980年のモスクワ五輪をボイコットして以来、これほど国際社会から反発を受ける五輪はないと言っても過言ではないだろう。

 中国は共産党中央統一戦線工作部が司令塔となって、世界各地で孔子学院や華僑・華人などが様々な宣伝活動を行っているのは周知の事実である。海外向けの宣伝活動に使用される資金総額は不明だが、年々増加しており、「年間1兆円は下らない」とする説がある。

 にもかかわらず、国際社会における中国の評価は下がる一方だ。

 6月下旬に米ピュー・リサーチ・センターが発表した調査結果がその典型例だが、注目すべきは「『中国が自国民を尊重していない』と考える回答者が多い国ほど、中国に対する見方が厳しい傾向にある」という指摘である。

 東京五輪で中国は米国に次いで38個の金メダルを獲得したが、女子飛び込み金メダリストのメダル獲得直後の取材陣とのインタビューが物議を醸している。

 中国の記者が「自分はどんな性格か」と尋ねたのに対し、14歳の金メダリストは母国語による質問の意味がわからなかったからだ。

 広東省の農村部出身の金メダリストは、選手人生を選んだ理由について「母親の病気の治療費を得ることが第1の理由だった」と語ったことから、ネット上では「14歳が日常的な質問をしても理解できないのは、政府が基礎教育をろくに受けさせずに機械のように練習のみをさせてきた結果ではないのか」との批判が相次いでいる。

 中国では引退後に生活苦にあえぐメダリストが後を絶たず、その背景には政府がスポーツ人気を体制維持に活用する「ソ連式モデル」を採用していることがある。貧しい親たちは政府からの支給金の誘惑に負けて、我が子の将来を犠牲にしているのである。五輪のために、現在も中国では「金メダルマシン育成」という名の児童虐待が続いていると思うと悲しくなる。

 中国政府は「グリーン五輪」を標榜しているが、開催地である北京周辺は半干ばつ地域であり、降雪量はわずかだ。このため巨大な大砲のような大型人工降雪機を100台以上配備して、絶え間なく霧状の雪を降らせるという。会場建設のために北京市北部の1つの村が丸ごと壊されたように、生態系に与える影響への配慮はゼロに等しい。

 国連は9日「地球温暖化は人間の活動による」と断定する報告書を公表した。しかし、中国政府はかねてから「2030年まで温室効果ガスの排出を増加させ続け、2030年以降になって初めて減少を始める」と国際的に主張している。

 今からでも遅くない。日本を始め国際社会は北京での五輪開催の是非について真剣に議論すべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年8月17日掲載

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