事件現場清掃人は見た よく聞かれる質問「幽霊を見たことはありますか」に対する回答

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 孤独死などで遺体が長時間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。長年、この仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、“霊の存在”について聞いた。

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 長く特殊清掃の仕事をしていると、「高江洲さん、幽霊を見たことはありますか」と聞かれることがよくあるという。

「私はこの仕事を始めてから、ほとんどの現場の写真を撮影してデータとして保存しています。でも幽霊と思しきものが写っていたことは一度もありません」

 と語るのは、高江洲氏。

現場に編集者とカメラマン

 初めて特殊清掃の現場を見た人は、その独特の空気感に圧倒される。強烈な死臭にしばらく悩まされ、夜眠れなくなった人もいたという。

「私は慣れてしまったせいでしょうか、ご遺体の人型がくっきりと染みとなって残っている部屋で仕事をしても、恐いと思ったりはしません。最初は恐がっていた私のスタッフもこの仕事に恐怖感を持たなくなり、やりがいを感じるようになっています。ご遺族や大家さんの感謝の気持ちに接することで、人の役に立てたと実感しているからでしょう」

 高江洲氏は、かつて現場を取材したいという出版社の編集者とカメラマンを同行させたことがあるという。

「10年以上前の話です。現場は20代の女性が自死した2DKのアパートでした。死後2週間経って発見されたそうです」

 最初、遺族はリフォーム会社に部屋の清掃を依頼した。

「特殊清掃をやっている私からすれば、素人の仕事でした。フローリングの表面はきれいになっていましたが、床下まで浸透した汚れはそのままでした。これでは臭いは消えません」

 他の業者が清掃を行った後、高江洲氏が再び仕事を依頼されるケースは結構あるという。

「夏場は遺体の腐敗が進みやすく、死臭も残るので特に多いですね。編集者とカメラマンは、初めて見る自殺現場ということでかなり緊張していました。死臭もまだかなり残っていたこともあり、2人は唖然としていました」

 高江洲氏とスタッフは、いつものように仕事を始めた。

チャイムが鳴る

「すると、私たちの作業を見学していた編集者とカメラマンがヒソヒソ話しているのが聞こえてきました。彼らは、外には誰も人がいないのに玄関のチャイムが時々鳴るのを耳にして『なぜ?』と思っていたようです」

 高江洲氏らは、チャイムを気にせず、黙々と仕事を続けていた。

「今度は、『もしかすると、このチャイムは高江洲さんたちには聞こえていない。自分たちだけに聞こえている死者の世界からの訪問かもしれない』と言って騒ぎだしたのです」

 編集者たちは、自殺した女性の霊がチャイムを押していると思ったようだ。

「普段、住人のいない部屋はブレーカーが落ちています。特殊清掃の作業で電動ノコギリを使ったりする際にはブレーカーを上げます。その時、電気が通じてドアチャイムが鳴ることは珍しくありません。作業中に何度もブレーカーを上げたり下げたりするので、その度にチャイムが鳴ってしまうのです。確かに、ドアの前には人はいないのでビックリするのも仕方ないと思います」

 作業を終え、遺族と編集者、カメラマンで食事に行くことになった。

「近くの寿司屋に入りました。女将さんはお茶を持ってきてくれましたが、人数分より1つ多く運ばれてきました。さらに、味噌汁も1つ余計に用意されました。現場の緊張感が続いている編集者とカメラマンは、『女将さんにはもう一人見えている。やはり……』と青い顔をしているのです。実際はただお客の数を勘違いしただけなのに、私は苦笑するばかりでした」

 後から事件現場の写真を編集者に送ると、今度は編集者のパソコンがフリーズしたという。

「たまたまだと思いますけどね。彼らはそうは思っていないようでしたが……」

 もっとも、特殊清掃の現場では、原因不明の音が響くことがあるという。

「ラップ現象(注・誰もいない部屋で音が鳴り響く現象)と呼ばれているもので、一人で清掃していると、カチカチという音を耳にすることはよくあります。とはいえ、これが霊によるものなのかどうかは私にはわかりません」

 高江洲氏は、通りすがりの人から「たくさんの霊がついている」と言われたこともあるという。

「以前、知人に霊媒師の元へ連れて行かれたことがありました。霊感がある私の同級生からは、『現場に行く時は清めの塩を持っていけ』と言われたこともあります。2人とも私の仕事の内容を知り、心配してくれたのでしょう。その気持ちはわかります。でも、『霊は存在するか』と尋ねられても、私は『わかりません』と答えるようにしています」

デイリー新潮取材班

2021年8月14日掲載

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