ヤクザ映画黄金期を支えた鶴田浩二の「芸」と「色」 山口組組員に襲われ頭と手に11針縫う大けがも

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某組の親分が「なんとも色っぽい……」

 話を「人生劇場 飛車角」に戻すと、鶴田は共演の佐久間良子とも恋愛関係にあり、だからこそ、飛車角とおとよの運命に引き裂かれる悲劇的な恋は迫真で、情感あふれる名シーンが生まれたと言われている。

 二人が特別な関係になったのは、鶴田が36歳、佐久間は22歳のときだったというが、このときの鶴田には、すでに妻子がいた。

 後年、佐久間は日経新聞の「私の履歴書」というコラムで鶴田との関係を、次のように告白している。

〈私は「不倫」という言葉は好きではない。だが、2人はもはや誰も止めることができない「灼熱(しゃくねつ)の恋」に駆り立てられていた。(中略)恋愛関係はその後、数年続く。私の若い恋心は、湖に浮かぶ木の葉のように激しく揺れ動いていた〉(2012年2月10日)

 岸恵子もまた、テレビ番組のインタビューで、〈人生を通じてずっと好きだったのは鶴田浩二さん〉と名前を挙げている。

 佐久間良子や岸恵子だけでなく、鶴田の女性にまつわるスキャンダルは数多い。他に噂になった女優が数人いるし、若い頃に生まれた子供を弟として育てていたなど、私生活は複雑である。

 鶴田の色気は演じる人物の所作や、立ち回りにも滲み出ている。例えば、鶴田が演じる任侠映画の主人公は長ドスではなく、匕首を忍ばせて殴り込みをかける。立ち回りでは相手の懐に入り、抱きしめるようなかたちで匕首を突き刺す。従来とは異なる立ち回りを観た某組の親分が「なんとも色っぽい……」と感嘆したエピソードが残っている。

 三島由紀夫もまた鶴田の信奉者だった。三島は鶴田が主演した1968(昭和43)年「博奕打ち 総長賭博」(山下耕作監督)を観て「鶴田浩二論」(『三島由紀夫全集35』新潮社)を書き、その演技を絶賛している。

〈おそらく、全映画俳優で、鶴田ほど、私にとって感情移入の容易な対象はないのである。彼は何と『万感こもごも』という表情を見せることのできる役者になったのだろう〉(前出「鶴田浩二論」)

 鶴田はどんな長い台詞でも淀みなく語り、NGを出すことはなかった。気難しく、大勢のスタッフや付き人を従えて歩く姿に批判的な関係者もいたが、不世出のスターであることは誰もが認めていた。

 東映のベテラン脚本家・高田宏治は鶴田についてこう語る。

「根っからの役者で、好きな女を抱いて、うまいもん食って、俺の一生はそれでいいみたいなところがあった」

 母親不在の家庭環境で育ち、幼少時は孤独だったという鶴田は、恵まれた容姿を武器に芸能の世界に入り、成功をおさめた。晩年はテレビに軸足を移し、古風だが信念を貫く男を演じて高い評価を得ている。

 享年62。戦時中、海軍航空隊に所属し、基地を飛び立つ特攻隊員を見送った鶴田は、軍歌「戦友」を聞くと、いつも涙を流したという。

デイリー新潮取材班

2021年8月13日掲載

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