ロンブー田村淳、最上もがも自称する「HSP」 「繊細さん」ビジネスの危うさ

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怪しいHSPビジネスが広がっている

 世の中には、「生きづらい人」をターゲットにした悪質なビジネスがある。「HSP」という言葉は、そのビジネスにとって恰好の的となった。いくつか例を挙げてみよう。

「脳波でHSPかどうかを診断します」

「『HSPうつ』を磁気刺激療法で治します」

 このような宣伝をするクリニックが目立ち始めている。心理学の研究者として、何が問題なのか説明したい。

 まず、「脳波でHSPかどうかを診断する」とあるが、「HSP」は精神疾患や発達障害のように医学的に「診断」されるものではない。また、脳波を用いたHSP気質の測定にはエビデンスがない。まともな検査ではないが、それでも一部の「HSP」たちに需要があるのは「HSPと診断されて安心したい」という心理があるからだろう。

 次に、「『HSPうつ』を磁気刺激療法で治す」とあるが、そもそも「HSPうつ」という疾患名はない。そして、「HSPうつ」なる疾患が磁気刺激療法で治るというエビデンスもない。自由診療で30万円程度することもあるようだ。それでも手を伸ばす人がいるのは、「生きづらさを何とかしたい」という藁をもつかみたい思いがあるからだろう。いずれにせよ、手を伸ばしてしまった人が責められるべきではない。

 怪しい医療ビジネスだけでなく、カウンセラー資格ビジネスも問題視されている。

 公認心理師や臨床心理士は、専門性が認められたカウンセラー資格である。なぜなら、基本的にその取得には、大学から大学院の6年間にわたる専門的なトレーニングに加え、資格試験への合格が求められるからである。

 心理学者の私からみると、HSPに特化した信頼できるカウンセラー資格はない。しかし、そうした「HSP専門カウンセラー」なる資格ビジネスは増えているし、それにまつわる被害を訴える人もいるようだ。

 例えば、そうした資格講座では、数回の受講で資格を得ることができる。受講に必要な費用は、数万円から数十万円程度である。

 資格によっては、ベーシックな講座を修了すると、アドバンスな講座を受講するように勧められるらしい。参加には追加料金が必要である。

 こうしたHSPカウンセラー資格ビジネスでは、次のような宣伝もみられる。

「HSPは特別な才能」

「HSPだからこそカウンセラーに向いている」

「HSPであることを生かす」

 講師自身も「HSP」を名乗っていたり、受講者募集ページに「HSP限定」と書かれていたりすることもある。肝心の資格講座の内容だが、心理学者の私からすると疑問を感じる点が多い。公認心理師や臨床心理士とは、専門性という観点からも劣る。

 HSP専門カウンセラー資格を取得して、救われる人がいるのだろう。だが、一部の資格ビジネスには「HSP」という言葉を利用して「生きづらさ」を抱える人を搾取する動向がみられる。

支援や治療が必要な人にそれが届かない

「HSP」という言葉を知る人が増えた。このことによって、心理臨床や教育の現場で働く支援者にとって、悩ましい問題が生じているらしい。ある支援者によると、本来、支援や治療が必要な人にそれが届かないケースがあるようだ。

 例えば、発達障害の傾向が強く、適応に苦しむ子どものケース。母親は「HSP」という言葉を知り、自分の子どもは障害ではなく「HSC(Highly Sensitive Child)」だと自己判断する。子どもは適応に苦しむが、母親がそれを病気ではなく気質であると考え、支援につながれない。その結果、子どもの状態は悪化していく。

 大人の場合でも同様だ。精神疾患や発達障害の傾向があり、本来治療が必要な状況であっても、自身を「HSP」であると自己判断して、「生きづらさ」の改善につながらないケースが想像できる。

「HSP」という言葉と出会い、自身の「生きづらさ」が説明され、一時的には「生きやすく」なるかもしれない。しかし、「HSP」というラベルを自分に貼ることには功罪(良い側面と悪い側面)がある。

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