レスリング銀で号泣「文田健一郎」は無類の猫好き パリ五輪で“反り投げ”を極める

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 日本の「お家芸」レスリング。しかし近年は女子ばかりが話題になり、男子レスリングの金メダルはソウル五輪(1988年)のフリースタイルで二つ獲得して以降はロンドン大会(2012年)の米満達弘が獲ったが、その後はゼロ。中でもグレコローマンスタイルは、1984年のロサンゼルス大会で宮原厚次が優勝してから37年間も金メダルから遠ざかっている。「37年ぶり」の期待を担ったのが60キロ級の文田健一郎(25)だった。

 シードから順当に勝ち上がり、決勝の相手はL・オルタサンチェス(キューバ)。ノーシードの選手だったが、世界王者だったロシアのS・エメリンを破って勝ち上がっていた。

 文田は開始から1分で押し出されて「場外」をとられる。その後も消極姿勢とされ、パーテレ・ポジション(腹ばい姿勢)を返されてバックを取られるなどで4点先行された。2ピリオドも両者1点ずつ追加したが硬直状態のまま。文田は何とか得意の大技「反り投げ」に行こうとするが、オルタサンチェスは文田が両腕で上半身を決めてくるクラッチを警戒し、脇を固く締める上、文田の手首を持つなどして攻められない。両者、立ち姿勢のままでブザー。1対5で敗れ東京オリンピックでの夢は消えた。

「もの言う」アスリート

 元々が涙もろい文田はマットを降りると松本慎吾強化委員長に寄りかかって号泣した。インタビューでは「実力不足だと思います。こんな状況でいろんな意見がある中で、それでも選手以上に信じて大会運営をしてくれたボランティアの人、関係者に、勝って恩返ししたかったんですけどふがいない結果に終わって申し訳ないです。応援してくれた全員にこの場を借りて感謝したいと思います」などと話したが終始、ぼろぼろの涙顔だった。

 2019年9月、五輪切符を賭けたカザフスタンの世界選手権で文田の勇姿を見た。世界王者のセルゲイ・エメリンを逆転して優勝すると「忍先輩がいてくれたからこそ……」と涙顔になった。「忍先輩」とは同じ日本体育大学出身の太田忍。リオデジャネイロ五輪(2016年)で銀メダルを取っており、文田は先輩の勇姿を観客席から見ていた。その後も二人はほぼ互角の成績で代表を争っていた。国内選考で文田に敗れた太田は総合格闘技に転じた。

 ライバル太田とは試合前、互いに挑発するような言葉も吐き合っていた文田は「もの言うアスリート」でもある。相手陣営の「チャレンジ」(判定への不服申し立て)では、会場のビデオ再生スクリーンを一瞥するだけでマット上をのっしのっし歩き回り、胸を叩いて「俺が勝っているだろ」と審判にアピールしていた。

 立ったまま後方に背中を反らせて床に手がつく驚異的な柔らかさの背骨や筋肉の柔軟性、強靭な背筋力を武器にした豪快な「反り投げ」が文田の必殺技だ。向き合った相手の両脇から差し込んだ両腕を相手の背中で組み、相手を頭越しに後方へ投げる大技だ。身動きが取れないまでに相手の上半身をがっちり固めた上、自らの体もブリッジで弓のように大きく反って後方へ投げ飛ばす。

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