小池都知事の肝入り「2階建て電車」は黒歴史に…満員電車ゼロは永遠に達成できない

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 新型コロナウイルスの感染拡大が顕著になってから1年以上が経過した。緊急事態宣言が発出された昨年、多くの企業がテレワークを導入。それまで東京・大阪など都市圏の通勤列車では、乗車率100パーセント超は当たり前の風景だった。緊急事態宣言後は、通勤風景が一変する。

 鉄道が混雑すると、ホームから転落する利用者やドアに挟まれる利用者などトラブルが誘発される。それが遅延を引き起こし、列車ダイヤが大幅に乱れる原因となる。列車の遅延は、企業活動や人々の生活をも狂わせる。そうした理由から、鉄道各社や行政はさまざまな手段を講じてラッシュ時の混雑緩和を図ってきた。

 政府もピーク時の混雑率を180%以下にすることが望ましいとし、鉄道会社に混雑率を下げるように通達している。

 東京都心部に9路線を有する東京メトロは、混雑路線として知られる東西線で対策を強化してきた。東西線は、東京都の中野駅と千葉県の西船橋駅とを結ぶ。西船橋駅から東へは東葉高速鉄道と相互乗り入れをしていることもあり、千葉県からの通勤需要も高い。

 混雑率を下げるには、列車の運転本数もしくは編成数を増やすのがもっとも効果的だ。しかし、それには大規模な施設改良を必要とし、莫大な工費と工期がかかる。すぐに実現できる話ではない。

 東西線の混雑を緩和する対策として、東京メトロは飯田橋駅―九段下駅間に折り返し線を造成する工事を進めている。また、南砂町駅では線路・ホームの増設工事に取り組んでいる。これら2つの工事が完成することにより、列車の運転本数を増やすことが可能になる。

 当初、これらの工事が完了するのは、それぞれ2020年度、2022年度とされていた。しかし、諸般の事情から工事は遅れている。

 設備面を改良するには、どうしても時間がかかる。その間も混雑を放置するわけにはいかない。そこで、東京メトロは2007年から“早起きキャンペーン”を開始。同キャンペーンは、オフピーク通勤を推奨することで乗客を分散して混雑の緩和を図ろうというものだ。

 単に、オフピーク通勤を呼びかけても利用者にメリットはない。そこで、東京メトロはIC乗車券に乗降データが記録できる点に着目。東西線の駅に設置された専用端末にタッチすることでメダルを獲得できる仕組みをつくり、獲得したメダルの数に応じてプレゼントキャンペーンに応募できるという特典を用意した。

 2007年以降、東京メトロは断続的に早起きキャンペーンを実施。東西線限定ながら、毎回1万人以上が参加する一大キャンペーンになった。現在、同キャンペーンは東京メトロオフピークキャンペーンと名称を変更して実施。

満員電車ゼロの公約

 2016年に当選した小池百合子都知事は、選挙戦で「満員電車ゼロ」を公約のひとつに掲げていた。小池都知事は、二階建て電車を導入することで混雑率を緩和しようと考えていたようだ。

 山手線や京浜東北線など、東京都心部を走る鉄道路線の多くは一階建ての車両を使っている。それを二階建てにすれば、単純計算しても乗車定員は2倍になる。そう考えて二階建て電車の導入を訴えたのだろう。

 しかし、二階建て電車を走らせるという考えは、すでに試行された過去がある。その結果、かえって混雑が増すという結果が出ている。

 なぜ、二階建て電車を走らせると、混雑は増すのか? その理由は、鉄道車両の構造にある。二階建て電車は、乗り降りするドアを各車両の前後にしか設置できない。通勤電車では、すぐに下車できるよう扉の近くに人が固まる傾向にある。

 通勤中に「ドア付近に立ち止まらないでください」「電車の中ほどまでお進みください」といった駅のアナウンスを耳にした経験は誰にでもあるだろう。

 一般的に、通勤電車はドアの近くが混雑する。そのため、昨今の混雑対策ではドアの数を増やすかドアの幅を広くして乗り降りをスムーズにすることが有効的とされている。

 つまり小池都知事が提案していた二階建て電車の発想は、逆の方向へ向かっていたことになる。こうして本格的な検討がされないまま、すぐに二階建て電車はお蔵入りになった。

 二階建て電車は小池都知事にとって黒歴史になったが、転んでもただでは起きなかった。小池都知事は自身の管轄下にある東京都交通局のみならず首都圏の鉄道各社を巻き込み、2017年から時差Bizと称する一大プロモーションを開始した。

 時差Bizは鉄道会社のみならず、多くの企業へも参加。時差出勤を企業全体に定着させることで、混雑の緩和を図ろうとしたわけだ。

 小池都知事が掲げる時差Bizに対して、2017年から東京メトロや東急電鉄は従来よりも停車駅の少ない時差Bizライナーや時差Biz特急の運行を開始するなどして協力。2019年には、京王電鉄も時差通勤をサポートする京王ライナー時差Biz号の運行を開始した。こうして、時差Bizの輪は広がりを見せている。

 こうした取り組みによって、「少しずつ混雑率が改善するのではないか?」と期待が高まったのも束の間、新型コロナウイルスの感染が拡大。その防止策としてテレワークが打ち出された。

 行政や鉄道事業者が懸命になって取り組んでも微減にとどまっていた混雑率は、皮肉にもコロナ禍によって劇的に緩和した。

次ページ:もっとも混むのは「日暮里・舎人ライナー」のなぜ

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。