生ぬるい「Night Doctor」ときれいごとの「TOKYO MER」 今期の医療モノを比較してみた

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 各局の夏ドラマがほぼほぼ出揃ったが、医者と警察とメシ系とジャニーズ祭り。いかにも日本の夏だなぁと半眼状態。心が躍らない。

 現実に医療体制が逼迫、医療従事者が疲弊しとるのに、よりによって救命医モノがふたつも。運ばれる患者の気持ちで観るしかないわな。

 まず、夜間専門の救命医が経験不足な若手の寄せ集めという「Night Doctor」。不安しかない。搬送するならあの病院だけはやめて、と思わせる衝撃の始まりだった。昼間の医者(梶原善)はさらに感じ悪いし。おっと、メンバーを紹介しよう。

 仕事優先で彼氏に浮気された波瑠、苦労人だが救命医としては使えない岸優太、病弱なぼんぼんの北村匠海、自己肯定感低めだが勝気な岡崎紗絵、そして医療訴訟を抱えている田中圭に、このチームをスパルタ&放任で転がして育てる沢村一樹。

 誰一人としてキャラが立つわけでもなく、無難というか、どっかで見たようなというか、よくあるというか。まあ、これはフジテレビが執拗に挑戦し続けている「医療従事者青春群像劇」なので、生ぬるく見守る。サブタイトルをつけるなら「医者だって、にんげんだもの。」かな。彼らの成長がメインディッシュなので。あ、看護師の野呂佳代は妙にリアル。全国の病院にひとりはいるよね、野呂佳代。

 もうひとつは、日曜劇場「TOKYO MER~走る緊急救命室~」だ。都知事が肝煎りで新設した救命チームと、事故や災害の現場で手術可能な特殊車両の活躍を描く。「死者ゼロ」を目指すという。

 主演の鈴木亮平が実に頼もしい。事故現場へどんどこ入って、テキパキ動いて、わっしわしと命を救う。擬音が聞こえてきそうなほど。事故現場の車内で開頭手術、引火性ガスが充満した建物内にマスクもせず救助に向かう無謀。「んなアホな!」とツッコミ連発だ。それでも亮平の迅速な判断と的確な指示、患者に接する態度や声掛けには絶大な安心感がある。滑舌もいいし、声色と音量が気持ちよく通る。人を動かす指示の出し方ってこういうことよねと感心。怒号や罵声じゃないのよね。

 ということで、患者目線で観るならば、というか診てもらうなら、亮平一択かな。

 おっと、メンバーを紹介しよう。亮平に感化される医師の中条あやみ、温厚な麻酔科医の小手伸也、菜々緒とフォンチーは優秀な看護師、臨床工学技士の佐野勇斗。そして厚労省の官僚で医師の賀来賢人だ。都知事(石田ゆり子)憎し、でMERを潰そうと画策する厚労大臣の渡辺真起子から密命を課されている賀来だが、いや、これ悪役に見えて善人化ポジションだな。

 日曜劇場定番の、熱い良心・悪い政治・定番台詞(今回は「死者ゼロです!!」)の3点を揃え、メインテーマの「きれいごと&まつりごと」をきっちり踏襲。

 この2作品に対しては、緊急事態宣言発令中で豪雨災害も起きた状況で、なんでドラマでもわざわざ事故や災害、救急医療の現場を見なくちゃいけないのか、という、そもそも論がある。医療従事者への感謝とエールだと思うことにする。と、きれいごとでまとめてみた。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年7月29日号掲載

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