スケートボード「男女ダブル金」 ブーム到来で懸念される公園・道路の「騒音問題」

国内 社会

  • ブックマーク

Advertisement

 メダルラッシュでスケートボード界が大盛り上がりである。男子ストリートで堀米雄斗(22)が金、女子ストリートも西矢椛(13)、中山楓奈(16)が金、銅と続いた。専門店では「堀米モデル」のボードやユニフォームが飛ぶように売れ、ますますブームに火がつきそうな気配。だが、公園や道路を管轄する自治体の担当者たちは「騒音トラブルがますます増えるのでは」と頭を抱えている。

 ***

上野恩賜公園の「噴水広場」

 花見の名所で知られる東京・台東区の上野恩賜公園。7月26日午後8時過ぎに噴水広場に向かって歩いていると、「ゴーゴー」と耳をつんざく音が聞こえてきた。100メートル以上離れた場所からもはっきり聞こえる轟音だ。

 近づくと、7、8人の若い男女がスケートボードを楽しんでいた。噴水付近に階段となっている広いスペースがあり、そこをめがけて飛び込む練習を繰り返している。上手く着地できずに転ぶたび、ボードが激しく地面を打つ音が響き渡る。

 上野公園に限らず、ほとんどの公園でスケートボードは禁止だ。だが、ここには日が暮れると、ボードを持った若者たちが続々と集まってくるという。同公園を管轄する東京都東部公園緑地事務所によれば、

「オリンピックで新競技に採用されたことが影響してか、最近になって増えた印象があります。禁止と掲げた看板を設置し、警備員を巡回させて注意をしてはいるのですが、すぐにまた現れるの繰り返しです。騒音もそうですが、他の利用者にぶつかるリスクがあるなど安全面の問題もあります」

 声をかけると一人の若者が取材に応じてくれた。18歳から25歳くらいの愛好家で構成されたグループで、毎日、夕方くらいに集まり出して、暗くなると解散するという。ここが禁止されている場所だと知っているか聞くと、素直に頷いた。

「わかっているんですが、練習できる場所がないんです。なるべく迷惑をかけないよう気を配っているつもり。警備の人に注意されますが、その時はわかりましたと言って一旦解散しますが、翌日には、しれっとまた来てしまいますね」

池袋駅周辺の路上でも

 公園ばかりではない。JR池袋駅東口から徒歩3分、駅前の大通りから一本外れた裏路地でも、地域住民や商店主たちは、深夜に出没するスケボー少年たちに悩まされている。南池袋公園の脇にある約200メートルの一方通行になっている道路が彼らの溜まり場だ。

「夜9時過ぎになると、ここは人も車もほとんど通らなくなるんです。その頃合いを見計らって彼らはやってくる。うってつけの手すりがあるので、そこに飛び乗る練習したりして、カンカンうるさいなんてもんじゃないですよ。7、8人が路上でたむろしてタバコ吸ったりしているし、通りすがるだけでも怖い」(近隣住民)

 豊島区によると、1年くらい前までは旧区役所前にあった中池袋公園によく出没していたというが、夜間に警備員を配置するなど見回りを強化した結果、路上に移ってしまったという。「いたちごっこが続いている」と担当者はため息をつく。

「スケートパークを増やして欲しい」

 都内ばかりでなく全国で、公園や道路を管轄する自治体が、スケボー騒音問題に頭を悩ませているという。公園内のスロープなどにブロックを設置し、物理的にスケートボードができないようにする対策を取ってはいるが、限界がある。昨年8月には、兵庫県警が神戸市内の広場でスケートボード中にコーンバーを破壊したとして、少年を器物損壊容疑で書類送検した。

「池袋スケートボード推進委員会」代表の小原祐一さん(45)は、「自治体も、取り締るばかりでなく、愛好家たちにもっと場所を提供するべき」と語る。

「道路も公園もダメとなると、愛好家らは限られた商業施設に行くしかなくなる。路上でスケボーをしている若者たちも、実はなるべく周囲に迷惑にならない場所を選んだりして周囲に気を遣っていると思います」

 小原さんによれば、かつて池袋の公園では、スケートボードは黙認され、若者たちが自由に遊んでいたという。だが、「10年くらい前から、次第に規制が厳しくなり遊び場がなくなってしまった」。小原さんは14年にスケボー専用パークの建設を求める署名を集め、豊島区に提出。以来、区と話し合いを続けてきたが、いまだ具体化はしていない。区によれば「試験的に駅前の公園の一区画を解放するなど取り組んでいるが、騒音問題もあり場所探しに難航している」(公園緑地課)とのことだ。

「堀米選手や他の日本人選手の活躍で、今後ますます若者たちが熱狂していくと思われます。スケートボードはストリートでの遊びから発展したスポーツ。街から排除するのではなく、街の中で共存できるような取り組みを自治体にも考えて欲しい」(小原さん)

 ここ数年で、都内には次々とスケートパークが設置されるようになったが、公共施設はまだ十数か所と限られている。スケートボードが日本の新たなスポーツとして根付くには、まだ時間がかかりそうだ。

デイリー新潮取材班

2021年7月27日掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。