【東京五輪】水球男子日本代表が熱い…大本洋嗣監督が語る「世界が驚く異例の戦術」

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「日本の水球は面白い!」

 大本監督が全幅の信頼を寄せるのは、棚村克行。身長183cmは、世界のゴールキーパーの中では決して大きくないが、抜群の感性と反応力でしばしば相手シュートを枠外に弾き出す。そして、棚村から始まる速攻で日本の得点を生み出す。つまり、多くのチームでゴールキーパーは「守りの要」と認識されるが、日本代表においてゴールキーパーは攻撃の起点であり、シュートを生み出す重要な攻撃陣のひとりなのだ。

「この戦法で戦うには、通常の何倍もの泳力と体力が必要です。ヨーロッパの選手たちは泳ぎ込みの練習は嫌がってそこまでしないでしょうね」

 ヨーロッパのプロリーグでも活躍する主将の志水祐介が教えてくれた。日本のパスライン・ディフェンスを採用すると、自ずと攻守交替の回数が増える。速いテンポで攻撃に転じ、その後すぐまた守りに戻る。体力が要求される戦術だから、日本は他国とは比較にならない泳ぎ込みを当たり前のようにやる。それがパスライン・ディフェンスの前提だからだ。

 この戦法を採用すると、世界の水球ファンが瞠目した。面白い、スピーディーでワクワクする。日本がボールを持った途端、スタンドが湧きあがる。

「日本の水球は面白い!」

 高い評価がいま世界の水球界で盛り上がっている。そんな潮流の中で行われる東京オリンピック。世界の水球ファンたちが、水球男子日本代表の活躍をひそかに期待している。

 しかも日本には、世界の至宝と言ってもいいスーパースター候補がいる。ポイントゲッターの稲場悠介。いま21歳。すでにヨーロッパのプロリーグで活躍する世界的存在。18歳で日本代表のエースに抜擢されるとすぐに国際大会で得点王に輝くなど、頼もしい活躍を重ねている。2019世界ジュニア選手権で日本は8位にとどまったが、大会のMVPに選ばれたのは稲場だった。8位からMVPが選ばれるのは異例。だが、それほど稲場のシュート力が際立っていた。

 東京五輪では各プール6チームの総当たりでグループリーグを行う。その後、各組上位4チームずつが決勝トーナメントを戦う。日本代表は25日にアメリカとの初戦に臨み、以後、1日おきにハンガリー、ギリシャ、イタリア、南アフリカと対戦する。いずれも格上、金メダルを狙う強豪ぞろいだが、「最低でも2勝、できれば3勝」を固く誓って、日本はグループリーグに挑む。それが果たせれば、W杯ラグビーで旋風を巻き起こしたラグビー日本代表と同様、決勝トーナメント進出が決まる。そして準々決勝に勝てばメダル獲得が実現する。

 それが夢物語でなく、「あり得る」と海外の強豪国もひそかに恐れる状況がいま整っている。水球男子日本代表の挑戦にぜひ注目してほしい。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

デイリー新潮取材班編集

2021年7月24日掲載

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