リンガーハットに東京チカラめしも…瀕死の上場外食企業が手を出す“悪魔の増資”MSワラント

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「こんなのありか」と反発

 だが、両者の割を食ってしまうのが既存株主である。権利行使がされればされるほど発行株数は増え、1株当たりの価値は希薄化する。さらに、MSワラントの引き受け手は権利行使の際にカラ売りをしかけることが珍しくないため、権利行使のたびに株価には下落圧力がかかる。日本経済新聞の調べでは、昨年9月から今年3月までにMSワラントを発行した54社のうち、6割の34社が株価を下げた。「悪魔の増資」と呼ばれるゆえんだ。

 MSワラントで連想されるのが、ライブドア事件で有名になった転換価格修正条項付社債(MSCB:Moving Strike Convertible Bond)だ。ニッポン放送買収のため、ライブドアは800億円のMSCBを発行したが、引き受け手となったリーマン・ブラザーズ証券がカラ売りをかけて大儲けした一方、割を食った既存株主からは「こんなのありか」という反発を招いた。

 今年、MSワラントを発行した上場外食企業の幹部は、

「業績を回復させて株価を上げる。株価を上げさえすれば問題ないんだろ」

 と、強気とも開き直りとも取れるコメントをしていた。だが、コロナ感染「第5波」を前に、業界全体、業績回復の道筋は見えず、今後もMSワラント発行に踏み切る企業は増えるだろう。

 株価下落は上場企業にとって自らの価値の低下に等しい。それを覚悟してもなおMSワラント発行に手を出してしまう飲食企業の姿は、餓死寸前に追い込まれた人間が毒入り饅頭を口に入れるようなものである。

 それほど飲食業界は、今、深刻な事態に陥っているのだ。

デイリー新潮取材班

2021年7月22日掲載

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