「シェフは名探偵」はカメラワークですべて台無し 役者も脚本もいい感じなのに…

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 カジュアルだが本格的な料理に定評のあるフレンチレストラン「ビストロ・パ・マル」が舞台。穏やかな笑顔で腕の確かなシェフに西島秀俊、スーシェフは声も顔も男前な神尾佑、ソムリエは「きゅん」と音を立てそうな唇の石井杏奈。そして、製薬会社をリストラされた濱田岳がひょんなことからギャルソンとして加わり、物語の語り部となる。料理の特性と訪れる客の悩みや憂いをうまいことリンクさせて解決に導くのが「シェフは名探偵」である。

 探偵といっても尾行したり調査に出たり、無駄な行動は一切しない。店の営業があるからな。基本的にレストラン内のワンシチュエーション。客の嗜好や行動パターン、話の内容から誤解や勘違い、心のすれ違いなどを鋭い洞察力で瞬時に読み取る西島。探偵というよりはカウンセラーに近い。

 客のエピソード部分は映像ではなく、絵画タッチの静止画でお届け。これで経費を削減できるのかな。今は、映画ですら予算削減のために最大の見せ場をアニメーションにせざるを得ない時代だもの。舌打ちする前にぐっと飲み込む。

 ひとつひとつのエピソードには多少のご都合主義も散見されるが、1話の中に複数のエピソードを同時並行させて、質とボリュームをキープ。NG料理が多すぎる客(奥田洋平)の妻が料理下手な理由、近所のショコラティエ(玉置玲央)が割り切れない素数にこだわる理由などを次々解明する西島。時には神尾の夫婦喧嘩の原因も突きとめ、名推理が冴えわたる展開。

 カスレ、ピストゥ、オッソイラティにヴァン・ショーとよく知らない料理や食材がわんさか登場して物珍しい。マカロンに興味がなくて種類も知らんかったわ。

 あまりうまくない俳句もどきだか川柳をやたら詠むが、転勤する恋人を追って店まで辞める一途な杏奈、記憶力抜群だが、横暴な客に一瞬歯向かってしまう甘さもある濱田、コワモテと思いきやチャーミング、時には清濁併せ呑む大人対応もする神尾。少数精鋭で土台を堅固に築きつつ、チャラいオーナー・佐藤寛太、思わせぶりな本物の探偵・橋本マナミと色も添える。

 ただ1点、私が苦手なところがあって、すべてが台無し。もはや病的と思えるほどの映像切り替えにうんざりなのよ。ひとりのセリフをまたいでまで秒速で映像を切り替える演出は、お若い方には人気なのかしら。目的は何なのかしら。テンポをよくするため? メインの4人ならば、切り替えずとも珠玉の丁々発止を体現できると思うのだが。役者を信用していないのか? なんならワンシチュエーション&ワンカメラでも、十分に魅せる舞台ができる布陣だし、定点カメラでもいいくらい。あの切り替えによる表現法、本当に、心の底から滅亡を願う。確かにちょっと前までは新奇性があったかもしれないが、もう流行りでもない。こちとら濱田の微妙な表情変化や、神尾が細かく刻んでくる中年っぷりが観たいんじゃ!

 パ・マル(悪くない)と言いたいが、この1点がある限りパが抜けてしまうのよ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年7月22日号掲載

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