3割の男性が発症するAGAの最新治療法 メカニズム不明の女性型脱毛症の対策は?

ライフ 週刊新潮 2021年7月8日号掲載

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“頭上の寂しさ”を気にかける男性は現在、国内でゆうに1千万人を超すという。まさしく「失って初めてわかる有難み」である。そもそも髪はどのようにして作られ、生え替わっていくのか。そのメカニズムとともに、老若男女を苛(さいな)む脱毛症の最新知見をお伝えする。

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 つやとコシを湛(たた)えながらふさふさと頭頂に蓄えられたタンパク質の塊。人目に触れるからこそ、若々しさを保ちたくなるのも人情であろう。

 が、何しろ相手は“生もの”であり、むろん寿命も限られている。そうした特性を十分に心得ながらいたわり続けることで、初めて髪の毛とは長い付き合いができるのだ。

「個人差はありますが、私たちの頭髪はおよそ10万本あるといわれています」

 とは、大阪大学医学部特任教授でもある、心斎橋いぬい皮フ科の乾重樹院長である。髪の毛の“生涯”にあたるサイクルは「毛周期」と呼ばれる。まず、毛髪を作り出している毛包幹細胞が活発に分裂して新しい毛が成長する「成長期」が2~6年、次に毛包幹細胞の活動が弱まって成長が止まる「退行期」がおよそ2週間。そして、新たな髪の毛が生える準備段階の「休止期」が3~4カ月である。

 こうして繰り返されていく周期には、季節性があるとされる。紫外線を多く浴びる夏は成長期の毛が増えて髪が蓄積されることで頭皮が守られ、秋から冬にかけては紫外線が弱いため毛髪はメンテナンスに入り、抜け毛が増えるという。

「毛周期は、平均して約4年のサイクル。10万本の頭髪が、4年ですべて入れ替わることになるわけです。ここから1日あたりの抜け毛を計算すると、およそ68本。日によってばらつきはありますが、毎日100本以上が抜け落ちている状態では、脱毛症を疑う必要があるでしょう」(同)

 その脱毛症にも、いくつか種類があり、

「男性型脱毛症や女性型脱毛症は、毛髪の本数には大きな変化がないものの、髪そのものが軟らかく、細くなって発症する。つまり、十分な長さと直径をもたず、産毛のようになる『軟毛化』によって引き起こされる脱毛症といえます。一方、円形脱毛症や休止期脱毛、ウイルス性疾患の後遺症としての脱毛症などは、実際に髪が抜けてなくなる症状なのです」(同)

 このうち男性型脱毛症は、AGA(androgenetic alopecia)という名で知られている。東京メモリアルクリニック理事長でもある、さとう美容クリニックの佐藤明男院長が言う。

「男性は、性欲や筋骨格の発達に関与する『テストステロン』という男性ホルモンが、睾丸から分泌されています。これが思春期以降、『5αリダクターゼ』という酵素の作用で『ジヒドロテストステロン(DHT)』というホルモンに変換されます。この物質が男性ホルモンレセプターと結びつくことで、毛包の最下部にあって毛を作る司令塔となる毛乳頭細胞の働きが抑制され、髪の成長期が短くなり、軟毛化や薄毛・抜け毛を引き起こすのです。これがAGAの症状で、男性の薄毛・抜け毛のほとんどが当てはまります」

 俗に“男性ホルモンの強い人は禿げやすい”といわれる所以か。そのAGAには「パターンヘアロス」と呼ばれる症状の型があり、

「いわゆる『M字ハゲ』のM型や『つむじハゲ』といわれるO型、あるいは前方から禿げていくU型などに分類され、これらが複合するケースもあります。全体的に薄い場合はAGAではない可能性もあるため、診断が必要です。AGAの診断基準は『観察部位に20%以上の軟毛化があるか』というもの。ヘアサイクルの休止期では軟毛化もみられますが、休止期にあたる毛は髪全体の10%未満とされており、20%を超えるとAGAと診断されます」(同)

 日本皮膚科学会がまとめた「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」によれば、AGAの日本人男性の発症頻度は全体で約30%となっている。年代別では20代で約10%、30代が約20%。そして40代は30%、50代以降では四十数%にのぼるという。

出産と閉経で

 ところで女性型脱毛症は、AGAとはまるで異なり、頭頂部の比較的広い範囲の髪が薄くなっていくパターンが多い。そして、AGAのような詳しいメカニズムが解明されていないのも特徴だという。

 クレアージュ東京エイジングケアクリニックの浜中聡子院長によれば、

「原因物質がDHTだとはっきりしているAGAとは違い、女性の場合は明確な原因物質があるわけではありません。主な原因は、加齢にともなう頭皮の血流の低下と、女性ホルモンを中心としたホルモン分泌量の低下です。分泌量は20代後半がピークなので、恵まれている人でも30代後半あたりから髪質が悪化したり、うねりが強くなったりする。また細毛化、軟毛化、薄毛などの症状も出始めます」

 加えて、

「女性には出産と閉経という大きなライフイベントがあります。この二つは女性ホルモン分泌量の急激な変動が起こる時期であり、産後脱毛のほか、閉経を迎える48~52歳の前後には更年期症状によって髪の毛も大きく影響をこうむります。エストロゲンという女性ホルモンの主成分である『エストラジオール』の分泌量が低下すると、更年期症状に直結することになります」(同)

 外見上もAGAとは明確に区別される女性型で、最も多いのは「びまん性脱毛症」というものであり、

「頭頂部からすだれ状に薄くなり、地肌が透けてくるのが典型的な症状です。もっとも、男性のように前頭部が薄くなるなど、女性版のAGAともいえる『FAGA』にかかる人もおり、中には側頭部から髪が減ってくる人もいます。それから、髪を結ぶ際に引っ張られて毛根にテンション(緊張)が掛かることで生じる『牽引性脱毛症』。こちらは宝塚女優やシンクロナイズドスイミングの選手、旅館の女将さんなどに多いタイプです。髪の分け目を変えて同じ部分にテンションが集中しないようにしたり、強く引っ張り過ぎないようにしたりするなどの工夫をするとよいでしょう」(同)

 そうアドバイスするのだ。

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