週刊誌モノ「半径5メートル」は芳根京子の“男の好み”と現代的なテーマが秀逸

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 ヒロインがカマトトでもドジッ娘でもなく、こじらせてもいない。しかも絵本と男の好みが絶妙とくれば、そりゃハマるでしょ。「半径5メートル」の話である。

 芳根京子が演じるのは女性週刊誌の記者。芸能人から政治家までスキャンダルを狙い、尾行に張り込み、突撃取材も茶飯事。下衆全開なタイトルで煽る記事を書く部署「一折(いちおり)」に所属。ところが狙っていた芸能人の熱愛スクープが、芳根のミスで事務所に潰されてしまう。結果、異動を余儀なくされる。生活情報が中心、半径5メートル以内の身近なネタを扱う「二折(におり)」へ。

 落ち込む芳根の教育係は、さすらいのオバハンライター・永作博美に託される。数多くの体当たり&体験取材を手掛けてきた名物記者だ(確か、小学館に実在するのよね、名物女性記者が)。

 劇中、芳根が取り組むテーマは「おでんおじさん」に「出張ホストにハマる女」、「捨てられない人」に「#家出中」など。永作はスパルタ指導もするが、ほどよい距離でさりげなくフォロー。お陰で芳根は多角的な視点の記事を書けるようになる。

 二折編集部の面々が抱える問題と、毎回のテーマがリンクしていく構造もいい。妻(片岡礼子)の心模様に鈍感な尾美としのりの「セックスレス」案件、トランスジェンダーとして生きることを娘に伝えていない北村有起哉の「SNSなりすまし」案件、そして人に頼るのが悔しい山田真歩の「ワンオペ育児の限界と孤独」。ひとつの事象に複数の視点と思いが絡み合う模様を描く。ネタも古くないし、「その裏」や「その先」に斬りこむのでかなり見応えがある。

 また、記事を書くことで対象者の人生を狂わせることもあれば、記者自身が非難を浴びて、個人情報まで晒されることもあり、今のSNS時代を象徴している。

 永作は過去に書いた記事で、ある男性(緒形直人)の生活も人生も一変させてしまった後悔の念がある。芳根の先輩記者・毎熊克哉も、悪徳芸能事務所の策略に嵌められ、大炎上と謹慎を経験。週刊誌のサガとジレンマも盛り込んであるのだ。

 個人的に、芳根と毎熊が懇ろになる過程のリアリティが気に入っている。酔って同衾した翌朝「やっべー」と天を仰ぐ芳根。そう言うわな、いろいろな意味で。しれっと芳根の家に転がり込む毎熊。こういうのが許される男、いるよねぇ。弱いのよねぇ、この手の男に。

 で、芳根の家の本棚には、エドワード・ゴーリーの「うろんな客」と「おぞましい二人」が!! これだけで全幅の信頼をおくよ、芳根に。

 レギュラー陣の身の上話もいいが、第8話が最も刺さった。老けているが私も一応氷河期世代。フリーランスで20年生き延びたけれど間違いなく野良犬だから。

 非正規への不当な扱いに憤る渡辺真起子、怒っても仕方ないと諦観する須藤理彩。同じ被害者だが哲学も言葉も違う。芳根と永作の取材を通じて、同じ方向を向くふたり。女のプライドの描き方にぐっと足を踏まれた、いや、心を掴まれた。有能だが非正規の女友達数人を思い浮かべる。社会の損失という言葉がよぎった。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年7月8日号掲載

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