「新幹線運転士、腹痛でトイレに」から考える 鉄道車両は何人で運転しているのか

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 JR東海の東海道新幹線で2021年5月21日、列車の運転士が走行中にもかかわらず、一時的に運転室を離れていた問題が発生した。腹痛のためにトイレに行っていて、その間、車掌が運転士の留守を預かっていたという。今回のトラブルに関しては、新幹線の運転について多くの人々が疑問を抱くきっかけとなったかもしれない。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏によるレポートをお届けする。

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 新幹線の車両を運転するには「新幹線電気車運転免許」という国家資格が必要だ。今回の事例がなぜ問題になったかというと、車掌はこの運転免許を取得していなかったからだ。

 JR東海、そして他の鉄道会社もこのような場合、運転士は無線で列車の指令業務を司る指令員の指示をまずは仰ぐ。指令員の指示にもよるが、列車を途中で緊急停止させるか、最寄り駅までたどり着いた段階で運転士は運転室を離れることができる。

 新幹線の車両には、ATC(自動列車制御装置)といって駅や先行する列車に近づくとその時点での制限速度以下になるよう、車両のブレーキを自動的に作動させる装置が導入された。

 たとえ運転士が加速を続けていたとしてもATCによるブレーキのほうが優先されるので、今回のような状況でも事故に結び付く確率は極めて低い。今回の運転士もATCについて当然理解しているので、列車を緊急停止、または本来は通過する駅に臨時停車させて遅れを生じさせるよりはよいと考えたのであろう。

 とはいえ、新幹線では過去に時速200km以上のスピードが出ていたにもかかわらず、車輪がスリップした状態をATCは停止したと判断してブレーキを緩めたケースもあった。

 したがって、JR東海や国土交通省が問題視したのもやむを得ないと言える。利用者としては、「運転士も人間であるから、体調不良のときはお互い様」と余裕をもって列車に乗るようにすれば、今回の運転士もここまで追い詰められなかったに違いない。

なぜ1人の運転士しか?

 さて、今回のトラブルでは新幹線の車両の運転について多くの人々が疑問を抱いた。運転室には何人の運転士が乗り組んでいるのか。そして、運転室にいないにしても他の車両などに運転士は乗り組んでいないのかという疑問だ。結論から言うと、東海道新幹線をはじめどの新幹線の車両の運転室にも、運転士は1人しか乗り組んでいないし、基本的に他の車両にもやはり運転士は乗り組んでいない。

「基本的に」とは、乗務員の一員である車掌のなかには先ほどの新幹線電気車操縦免許を取得した人がいるケースもあるからだ。しかし、すべての車掌がこの免許を取得しているとは限らないし、そのようにしなければならないという決まりもない。

 こういうと驚く人もいるであろう。新幹線ともあろう車両になぜ1人の運転士しか乗り組んでいないのかと。答えは大変シンプルだ。通常の運転操作である限り、一人で済ませられるからである。

 新幹線の車両の運転操作というと、多くの方は似たような乗り物として航空機を思い浮かべるかもしれない。航空機の場合、大型ジェット機などでは機長と副操縦士とが乗り組んでいる。

 2人乗り組んでいるのはやはり理由があり、自動化が進んだとはいえ航空機の操縦は大変難しく、また操縦時に把握しておかなければならない計器類も多岐にわたるからだ。2人同時に操縦はしていないけれども、最も難しい着陸時などは一人が操縦し、もう一人が操縦以外に必要な確認作業などを行っているという。

 一方で、新幹線の車両では加速させるには右手側の主幹制御器ハンドルを引くだけでよいし、ブレーキをかけるには左手側のブレーキハンドルを左に回せばよい。2本のハンドルとも渾身の力を込めなくても動く。どちらも一気に引いたり、回せば乗り心地は悪くなるものの、車両が壊れたりはしない。

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