河井克行元法相に実刑3年「議員辞職」や「涙の謝罪」を裁判所に完全スルーされたワケ

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 2019年夏の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、6月18日、東京地裁は河井克行被告(58)に懲役3年の実刑判決を言い渡した。逮捕後も無罪を主張し、7カ月にわたり議員の職に止まり続けた河井被告は、今年3月に突然、辞職を表明。一転、買収を認め「万死に値する」とも語った。だが判決では、「議員辞職」も、最後の意見陳述で見せた「涙の謝罪」も完全スルー。弁護側の主張はことごとく退けられた。

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約2800万円が買収目的と認定

「100対0の判決でしたね。弁護側のこまごまとした主張はすべて退けられ、検察側の主張通り完璧に認定された。判決の読み上げも短く1時間10分。厳しい判決が予想されていましたが、判決文を聞いていて、ここまで裁判官の心証を悪くしていたんだと、ちょっと驚きもしました」

 こう振り返るのは初公判から裁判を傍聴し続けた司法記者である。

 地元議員ら計100人に5万円から200万円、計約2800万円を買収目的で配ったと認定された河井被告。20年8月の初公判では、現金提供の事実は認めた上で、「選挙運動を依頼する趣旨で現金を渡したことはない」と無罪を主張した。弁護側の主張は、現金提供は「統一地方選の当選祝いや寄付であり、適法な政治活動の支出」というものだった。

「本人は当初、この主張で裁判を争えると信じ切っており、強気の姿勢を見せていました。けれど公判が進むにつれ、自分がカネを配った議員らが、目の前で『買収目的だと思った』と語っていくのを見て、さすがに抗いきれないと思ったのでしょう。100人中94人が買収目的だったと認めていました」(同前)

「あんな能力の低い議員に……」

 今年3月の被告人質問になったタイミングで、河井被告は突然、議員辞職。「皆様の信頼を裏切ってしまったこと、万死に値すると考えます。お金で人の心を『買える』と考えた自らの品性の下劣さに恥じ入るばかりです」との所感を発表した。

 同時に法廷でも、一転して大半の買収を認め出した。被告人質問では、20年来親身になって支えてくれたという「神父さま」から、「自分の内面に誠実に向き合うように」と諭されたことがきっかけで、起訴内容を認める決意をしたと“懺悔”。後援会の人々に対しては「言葉に尽くせぬ取り返しのつかないご迷惑をかけてしまった」と声を震わせながら述べた。

「予兆は少し前からありました。年末から年明けにかけて、調書の内容を大幅に同意し出していました。あのまま当初の姿勢を貫くとなると、後援会関係者を法廷に立たせて、反対尋問する展開になりかねなかった。さすがに今まで自分を支え続けてきた人を攻撃するようなことは忍びないという気持ちはあったのでしょう」(同前)

 だが、その後もある地方議員に渡したとされる金額の多寡を巡って、ふてぶてしく自分の主張を貫く場面もあった。

「あんな能力の低い地方議員にそんな多額のカネを渡すわけがない、みたいな攻撃的なことを平然と言うのです」(同前)

 5月18日の最終弁論では、弁護側は4時間半かけて210ページの文書を読み上げた。妻の案里元議員を当選させる目的で現金を提供したことを認めつつも、「主な目的ではなく、あくまで付随する目的」とし、「案里元議員は当選する見込みが高いと考えていた」、「現金を提供したのは党勢拡大などが主な目的。人数や金額だけにとらわれてはいけない。検察は現金を受け取った人たちの処分を行っておらず、公正公平を欠いている」と執行猶予付きの判決を求めた。

 一方、河井被告本人は最終陳述で、「純粋な心で戦った妻をだしにしてしまったことに、日々、自責の念を抱いています」、「一刻も早くふるさとの土を踏ませていただき、謝罪させていただきたい」と涙ながらに語ったのであった。

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