大坂なおみさんへの差別にうんざり… 見るに堪えないネットの意見と、便乗するメディアの汚さ(中川淳一郎)

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 大坂なおみ選手へのネットの誹謗中傷が凄まじく、東京五輪の日本代表になることも考慮し、2019年にアメリカではなく日本国籍を選んだのに気の毒で仕方がありません。大坂選手は試合中に苛立つとラケットを投げ、また、「選手の心の健康状態を無視している」と全仏オープンでの会見を拒否して罰金を食らいました。ラケットについては提供するスポンサーが、会見拒否については世界的テニスプレイヤーが苦言を呈しました。

 スポンサーや選手の苦言は当事者として非常に示唆に富んだもので、大坂選手も耳を傾ける必要はあるでしょう。ただ、日本のネットの意見がもう見るに堪えないんですよ。

 大坂選手は、BLM運動の最中に行われた全米オープンで、警官に射殺された黒人の死者の名前のついたマスクを着けてコート入りしたことで、「アスリートは政治をスポーツに持ち込むな!」と批判された過去があります。また、女性アスリートでは世界一の年収60億円です。

 テレビは、過去にサーシャ・バジンコーチを解任した後、試合中に激高する様を「メンタルが弱い」などと分析し、それにネットも「日本人らしくない!」などと同調。そうした経緯を経て今回の全仏オープンの会見拒否・追放か? に対する反応です。

「いなくなってせいせいするのは四大大会運営側だよな。黒人女という無敵のカードを持ってるからって政治色持ち込み過ぎ」

「日本国籍を剥奪してくれればみんなせいせいする」

「やっぱり日本人じゃないな」

 私は以前にも本誌(「週刊新潮」)で、大坂選手の“政治的発言”への批判に対し「人権問題への発言」だと述べるとともに、「スポーツに専念しろ」という意見には「全米オープン優勝は十分専念している証拠だ」と反論しました。

 彼女のことは好きでも嫌いでもないですが、日本に巣食う黒人差別にはうんざりしています。大坂選手の一連の言動を、「だから黒人は……」とネットの人々は上記のように批判する。

 東京の銭湯での話です。常連の60代男性とはサウナで話す関係だったのですが、黒人男性が入ってきた瞬間ギョッとして、彼が水風呂に行くまで黙っている。そして、私に聞いてきました。

「あのさ、あいつがオレらのサウナに来るのどう思う? オレ、あいつが入った後の水風呂とか入りたくないんだよな」

 これには「別になんとも思いません」と言い、この常連と会いたくなくなったので、もうこの銭湯に通うのはやめました。

 そして、東スポについて意見を言いたい。東スポWebは「【全仏OP】誰も意見できず…『会見拒否』大坂なおみの加速する“モンスター化”」という記事を掲載しました。昨今の東京五輪開催反対論調もそうですが、東スポWebはとにかくPV(アクセス数)が稼げる論調を見出したら、そちらに突き進む傾向がある。大坂選手を叩けばアクセスが稼げると踏んだのでしょう。ネットニュースの編集を長年やってきた私には、それがよく分かります。昔みたいに「カッパ発見」とかやってればいいのに……。そうも言ってられない経営状況なのでしょうね。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

週刊新潮 2021年6月17日号掲載

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