今期一番の純愛モノ「リコカツ」 「愛の不時着」っぽさもありながら、上質な笑いがウリに

  • ブックマーク

Advertisement

 ふたりの出会いは救助。航空自衛官で救難員の永山瑛太が、山で滑落して遭難した北川景子を助けたのがきっかけ。お互いの生活信条や家庭環境、衣食住の好みをよく知りもせず、お泊りもセックスもせず、雨ニモ負ケズ風ニモ負ケズ……いや、それは違う、とにかく出会って3カ月でスピード婚。やることやらずに、新居は都内の中古マンションを購入&リフォーム。ところが新婚生活初日から価値観の違いが露呈。売り言葉に買い言葉、たった数日で離婚を決意するものの、実は双方の両親も長年の不和が限界にきて、離婚する方向へ動き出す。つまり、親族全員離婚という悲劇をコミカルに描く「リコカツ」。

 リコカツ=離婚のための活動だから、別ベクトルのややこしさと香ばしさ(慰謝料に財産分与、旧姓に戻すことで生じる社会的な齟齬、両家のいがみ合いなど)を想像していたのだが、すっかり裏切られた。なんか、もっとエモーショナルな部分がメインで、しかもちゃんと恋愛モノ。瑛太と北川が離婚を機に「お互いの一長一短を知って、恋をし直す」様子が、意外と楽しい。

 自衛官の瑛太も初めはコミカルにやりすぎと思いきや、一挙手一投足がそこはかとなく可笑しくなってきた。2回観ると細かい表情や動作の面白みがジワジワと伝わってきてね。しかも、ふたりの心が距離を縮める「しっとり&切ない見せ場」もあり、ギャップも含めて計算された笑いだと知った。

 毎回、米津玄師の歌声とともに展開する見せ場(抱えて階段落ちとかバックハグとかな)の入れ方がうまいなと思うし、米津の歌い出し「♪ずっと~」がかかるのを心待ちにする自分もいる。なんだろう、これ、どこかで体験したような気が……。そうだ「愛の不時着」だ。北朝鮮に不時着しちゃった韓国のお嬢さんと北朝鮮の実直な兵士の奇想天外な恋模様。あっちは極上の胸キュンとコメディとサスペンスと南北分断の悲劇とてんこもりだったから、比べものにはならないが、どことなく不時着感が漂う。もちろんいい意味で。瑛太が「軍人」だからっつうだけかもしれないが、絵面も不時着仕立ての胸キュン劇場に。

 それでもふたりは離婚して、それぞれに刺客というかネクストが現れる。北川には元カレで弁護士の高橋光臣と、担当する傲慢恋愛作家の白洲迅が、瑛太には自衛官に向いていない上官の田辺桃子が熱烈にアプローチ。でも、どう見ても弱い。噛ませ犬にもならない。

 これは役者に魅力がないとかではなく、瑛太と北川に重きを置いた設定だからだ。魅力的で強力なライバルはそもそも不要。もうさ、どんどん好きになっとるよね、お互いが。言いたいことをLINEで伝える割に、相手への愛も未練もダダ洩れなワケだよ。このふたりの終わりからの始まりを見守る、そんなドラマになっている。ま、一言で表すなら「そういうのは結婚する前にやっとけや!」である。

 両家の家族も面白い人選だが、もうシンプルにふたりの物語ってことで受け止めて、絵もふたりに限定。今期一番の純愛モノだよね。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2021年6月17日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。