「慰安所日記」研究者が明かす「強制連行」とはかけ離れた実態 「女性たちは結婚、貯金もできた」

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野戦郵便局に貯金

 次に「売春婦の貯蓄」を見てみる。拙著では、元慰安婦の文玉珠氏の証言を紹介した上で、朴氏の日記に出てくる数多くの金銭のやり取りをまとめて表にした。

 文玉珠氏は1942年に朴氏と同じ船に乗ってビルマに渡った。同じ慰安所にいたことはないが、その証言は朴氏の記述を裏付けるものが多い。彼女はかつて森川万智子氏の取材にこう語っている。

「軍人に、私も貯金できるか尋ねると、もちろんできるという。兵隊たちも全員、給料を野戦郵便局で貯金していることを私は知っていた。貯金することにした。兵隊に頼んで判子も作ってもらい、お金を500円預けた。わたしの名前の貯金通帳ができあがってくると、ちゃんと500円と書いてあった。生まれて初めての貯金だった」

 彼女は続けて「千円あれば大邱に小さな家が一軒買える」と語っている。だから500円は大金である。

 本には紹介しなかったが、日記には以下の件がある。

「横浜正金銀行に行って、村山氏の慰安所の慰安婦2人の貯金をした」(昭和18年6月2日)

「慰安婦に頼まれた送金600円を本人の貯金から引き出して、中央郵便局から送った」(昭和19年10月27日)

 つまり彼女たちはかなり高額な金銭を得て、貯金もしたし、朝鮮半島の実家に仕送りもしていたのだ。

 ラムザイヤー教授は、日本の遊郭などの文化や歴史などを整理した上で慰安婦問題を検討している。そして「売春(Prostitution)」と「年季契約奉公(Indentured servitude)」の関係に注目する。

 教授によれば、1920年代半ばの前借金は千円から2千円で無利子だった。一般的な契約期間は6年で、売り上げの3分の2から4分の3は売春宿が取り、売春婦に支払われる額の60%が前借金返済に、残りが本人に渡された。

 公認の売春婦はこうした年季奉公契約のもと、前借金を全額返すか、契約期間満了まで働くが、実際の売春婦の平均労働期間は3年程度だったとしている。

 そして危険な戦地の場合は契約期間が短縮されて通常2年となり、もっと短い場合もあったという。また大きなリスクの代償として、朝鮮や日本本土の売春婦より高い報酬を得ていた。教授は論文の末尾でこう記す。

「慰安婦と売春宿は多額の前借金と1、2年の契約期間を定めた年季奉公契約を結んだ。そして戦争が終わる最後の数カ月までは、慰安婦は契約期間を終えるか、前借金を早く返して家に帰っていったのである」

 ただし、その契約書自体は提示できていない。ここが学術論文として批判されるポイントとなっている。だが、教授の調査結果は朴氏の日記と矛盾しないし、日記から見ても売春婦たちが日本軍に「強制連行」され、売春を強いられた「性奴隷」だったとは考えにくい。

 もちろん慰安婦募集にあたって、売春宿のオーナーや斡旋業者が嘘をつくことはあっただろう。また親が子供を売るということもあったかもしれない。ラムザイヤー教授もそれは否定していない。だが、多額の前借金があることは慰安婦たちも知っていたし、この当時、売春は今と違って合法であった。現代の価値観から過去を語るべきではない。

慰安所は譲渡できた

 慰安婦問題では、もうひとつ大きな争点になるのが、慰安所が軍に属していたかどうかだ。むろんラムザイヤー教授はそれを否定する。ただし衛生管理はしていたとする。

「日本軍が東アジアに進軍し退却した1930年代から40年代、軍は基地近くに民間業者が半公式の売春宿を作ることを奨励した。1918年のシベリア出兵では性病が蔓延したので、そのリスクをコントロールする必要があった。このため売春宿の所有者と協力し、売春婦たちに定期的な医学検査を実施した」

 と、序文にある。

 朴氏の日記にも性病検査の記述は度々出てくる。お客(軍人)の自動車に慰安婦全員を乗せて金泉館に行き、検査を受けたという記述や、慰安所自らが積極的に兵站司令部に行き、慰安婦の検黴(けんばい)(梅毒検査)をインセン(ラングーン郊外)で行うよう請願した話も出てくる。軍は定期的に慰安婦を検査し、性病にかかっていたら入院させてもいた。

 一方、慰安所は譲渡することができた。

「朝、一富士楼の村山氏宅で起き、朝食を食べた。終日帳場の仕事をした。村山氏の話では、先日に約束した一富士楼慰安所を9月1日に引き渡すのではなく、9月まで自分が経営し、10月初旬に引き渡すというから、それは駄目だと言ったら、他の人に譲るというので、そうしなさいと承諾した」(昭和18年8月24日)

 朴氏は一富士楼を手に入れようとしていたが、結局、「本籍慶南統営郡の人山口秀吉」(8月28日)に譲渡されることになる。軍が経営したり、軍に属していたのであれば、こうはできないであろう。

 ***

 ラムザイヤー論文は日記や私の調査と一致するところが多い。そして互いに照らし合わせてみても、「慰安婦が売春婦である」ことは、客観的な結論だと思う。

 ラムザイヤー教授への攻撃は、韓国の反日闘争の国際化である。私は韓国の民主化を肌で感じてきた者として、その民主主義と人権意識の高さに誇りを持っている。だがこの度は、学問の自由はまだ確立されていないと思わざるを得ない。民族を愛するのはいいが、学問は民族を超えるということを理解してほしい。

 戦争で犠牲になった女性は、韓国人だけではない。日本人女性も満洲や朝鮮半島でソ連兵などに性暴行を受けたし、朝鮮戦争当時、国連軍が韓国の私の故郷で行った性暴力を、私は実際に見知っている。こうした問題は、民族主義でではなく、人類愛を基礎とした平衡感覚をもって事実追究に当たり、解決していかなければならないのではないか。

崔吉城(チェ・キルソン)
広島大学名誉教授 東亜大学教授。1940年韓国京畿道生まれ。ソウル大学師範学部卒。文学博士(筑波大学)。専攻は文化人類学。韓国啓明大学、広島大学教授教授を歴任。著書に『韓国の米軍慰安婦はなぜ生まれたのか』『「親日』と「反日」の文化人類学』など。

週刊新潮 2021年6月10日号掲載

特集「韓国で大バッシングのハーバード大教授『慰安婦=性奴隷』否定論文 原資料は私の『慰安所日記』研究」より

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