新型コロナを笑い飛ばす米露の「ウラ事情」

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 筆者は世界の政治ジョークの収集を趣味にしており、月刊誌時代の『フォーサイト』に「カレント・アネクドーツ」というコラムを10年近く連載させてもらった。現在は、拓殖大学海外事情研究所が発行する国際問題専門誌『海外事情』で「世界最新アネクドート」というコラムを担当しており、最近、最新の作品を集め、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)と題して出版した。

 政治や社会の矛盾や不自由を揶揄し、毒を盛り込んで笑いを取る手法は、日本では川柳というジャンルが発達しており、政治ジョークはまだまだ後発だ。しかし、米国やロシアでは、傑作な政治ジョークが作られ、インターネットやSNSで拡散している。

 特にこの1年は、世界を震撼させた新型コロナウイルスをめぐるネタが多かった。世界で1億7000万人の感染者、370万人の死者を出した新型コロナをジョークのネタにするのは不謹慎ながら、ステイホームを強いられ、欲求不満が高まる多くの人々はジョークで憂さを晴らしており、新作が次々にアップされている。

 ここでは、日本人が必ず笑える米露のコロナ・ジョークをピックアップしてみた。

死ぬのは奴らだ

問=トランプ大統領とコロナウイルスの共通点は何か?

答=ともに後遺症が残る。

 ハリウッド俳優のジョン・トラボルタが発熱し、コロナ感染の疑いがあるため病院で診察を受けた。

 結果は陰性で、医師は「Saturday Night Fever」と診断した。

問=ホームパーティーに持参するビールは何か?

答=A case of Corona.

 トランプ大統領がマスクを着けずに工場を視察した。

 これを報じた米テレビが、バックグラウンド曲に「007」シリーズのテーマ曲を流した。

「Live and Let Die」(死ぬのは奴らだ)

 長く意識を失っていた患者が回復し、新聞で新型コロナ感染者数の国別ランキングを見て言った。

「アメリカ、ブラジル、ロシア、英国、フランス、ドイツ……東京五輪の金メダル獲得ランキングかと思った」

 新型コロナはいまや、イエス・キリスト生誕に匹敵するほど歴史を塗り替えた。

 BCは、Before Coronavirusといわれる。

 ADは、After Distancing

問=新型コロナの特効薬は、どうやって開発されるか?

答=ドイツ人が発明し、

  アメリカ人が投資し、

  フランス人がデザインし、

  日本人が小型化し、

  イギリス人が実用化し、

  イタリア人が宣伝し、

  中国人が海賊版を作り、

  韓国人が起源を主張する。

バットウーマン

 最大の感染者を出した米国の被害は惨憺たるもので、1月初めの感染者は1日25万人に上った。ドナルド・トランプ大統領の退陣後、ワクチン接種の普及もあって減少に転じたものの、米社会では、発生源の中国を叩く「China phobia」(中国禍)の風潮が出てきた。

 自らも感染したトランプ大統領は、コロナウイルスを「Wuhan Virus」(武漢ウイルス)「Chinese Virus」と呼んで中国の責任を追及。ジョー・バイデン大統領も5月26日、情報機関に対し、新型コロナの発生源に関する追加調査を行い、90日以内に結果を報告するよう指示した。感染源問題が、再び米中攻防の舞台になりつつある。

 中国当局は武漢が発祥の地とする見方を否定。中国の学者らは「2019年春ごろイタリアやスペインで発見された」「輸入冷凍食品に付着して中国に流入した」などと珍説を唱えている。

 世界保健機関(WHO)の調査団は今年2月、ようやく武漢で現地調査を行ったが、中国側は徹底した隠ぺい工作を行い、結論は下せなかった。

 集団感染が起きた武漢の海鮮市場の近くにはウイルス研究所があり、石正麗という女性研究者を中心に、コウモリ(Bat)を使ったウイルスの研究が行われていた。石氏は「バットウーマン」(中国語で蝙蝠女侠)と呼ばれ、2003年に中国で流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスがコウモリを起源にしていることを突き止めた。

 コウモリは「ウイルスのデパート」といわれ、中国では珍味として知られる。森下竜一大阪大学大学院寄附講座教授は「台湾での有力な説」として、実験動物を闇市場に横流しして食べた可能性があるとしている。

 ジョークの世界では、「武漢」「コウモリ」「ウイルス研究所」がキーワードだ。

問=中国にクリケットのチームが存在しないのはなぜか?

答=バットを食べるからだ。

問=コウモリとテロ組織アルカイダの共通点は何か?

答=ともに暗い洞穴に潜伏し、米本土攻撃に成功した。

問=武漢で生まれた中華料理の新作は何か?

答=“Wuhan Fried Bats”

 新型コロナウイルスに感染し、重症になったアメリカ人の高齢者が嘆息した。

「やれやれ、私の死も『Made in China』だ」

問=米国で真っ先にコロナウイルスに感染するのは誰か?

答=バットマンとロビン。

問=新型コロナウイルスと銃の共通点は何か?

答=いずれも中国で作られ、大半の米国人が保有している。

 コロナウイルスがパンダを通じて感染しなくてよかった。

 もし感染していたら、「pandamic」

プーチン対ナワリヌイ

 新型コロナはロシアにも大きな打撃を与え、500万人が感染した。地方では医療崩壊を招き、経済、社会を混乱させた。当局はコロナ死者を過小評価しており、実際の死者は40万人を超え、人口当たりの死者は米国を上回るとの疑惑も出た。

 その中でロシアは昨年8月、世界に先駆けてコロナ・ワクチン「スプートニクV」を開発し、拙速ながら、第3段階の臨床試験を待たずに承認した。英医学雑誌は有効率92%としている。ただ、生産が追い付かないことや国民の拒否反応もあって接種率は低いようだ。

 日本はワクチン開発は力負けだったが、中露は途上国などに輸出する「ワクチン外交」を展開する。コロナ禍で引きこもり気味だったウラジーミル・プーチン大統領も、遅ればせながら4月に国産ワクチンを接種した。

 アネクドートは旧ソ連時代からロシア文化の至宝であり、新型コロナをめぐる傑作な作品が次々にジョークサイトにアップされている。

 ロシアの天才少年アンドレイは化学の先生が大嫌いだった。

 彼は遂に、オンライン授業で、先生のパソコンを爆破させることに成功した。

 ドイツの売春婦は政府から、営業を停止すると、1000ユーロの補償を払うと言われた。

 ロシアの売春婦は政府から、営業を停止しないと、1万ルーブルの罰金を科すと言われた。

問=ウオツカはコロナの感染防止に有効か?

答=有効ではないが、感染の恐怖を緩和することができる。

 プーチン大統領の国民対話で、農村の住民が質問した。

「われわれの村には、商店も病院もなく、道路も橋も壊れていて街に行けません」

「それならコロナ対策は万全だ。ウイルスはあなたの村には届かない」

問=プーチン大統領と反政府指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏への国産ワクチンの有効率は?

答=50対50だ。

 22世紀、強力な新型コロナウイルスがまた世界を襲った。

 アメリカでは、米大統領が国民に自宅待機を訴えた。

 フランスでは、欧州連合(EU)大統領が国民に自宅待機を訴えた。

 旧ロシアでは、中国共産党総書記が国民に自宅待機を訴えた。

名越健郎
1953年岡山県生れ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長を歴任。2011年、同社退社。現在、拓殖大学海外事情研究所教授。国際教養大学東アジア調査研究センター特任教授。著書に『クレムリン秘密文書は語る―闇の日ソ関係史』(中公新書)、『独裁者たちへ!!―ひと口レジスタンス459』(講談社)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『北方領土はなぜ還ってこないのか』(海竜社)など。

Foresight 2021年6月13日掲載

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