少女への性的虐待の実態 チェコの衝撃ドキュメンタリー「SNS-少女たちの10日間-」が暴いた現実

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少女だと偽って…

 スクリーンの上で展開するおぞましい現実について、「日本には無縁の出来事」と捉える人はおそらくいまい。我々はこの映画と同様の事案が日々発生していることを知っている。最近数カ月という期間で絞ってみても、20代の男性会社員がSNSを通じて知り合った小学生の女子児童にわいせつな行為をした廉(かど)で捕まり、30代の男性派遣社員がSNSで知り合った女子中学生を自宅に連れ込んで未成年者誘拐容疑で逮捕されるなど、事件が続発しているのだ。

「日本においても、映画の中で描かれているようなネット上で完結する性被害は大変多いです。もちろん、好奇心から安易に誘いに乗ってしまうケースもありますが、予期しないうちに被害に巻き込まれることもあります」

 防犯アドバイザーの京師美佳氏はそう語る。

「具体的には、成人男性が少女だと偽って連絡してきて、『私は胸が小さいのが悩み。あなたの胸を見せてほしい』として小学生の女児に写真を送らせる。その後、写真の返却を求めたら成人男性本人が出てきて、写真をばらまかれたくなければ黙っているよう脅され、追加で写真を送ることを強要された、という事例がありました」

 ジャーナリストの石川結貴氏も、

「日本の場合、裸の自画撮り写真や動画を送らされる被害が多い。また、その手口は、この映画に登場する男たちより巧妙です」

 として、2016年に当時46歳の男が約1600人の少女たちとLINE上で「友だち」になり、約130人にわいせつ画像を送らせていたことが明らかになった事件に触れる。

「この事件の場合、LINEのID交換掲示板で、男がたった一人の女子中学生とLINE上の友だちになったことが発端でした。男はイケメンモデルの写真を使って大学生になりすまし、最初に知り合った女子中学生が入っている、部活やクラスのLINEグループに招待してもらう。さらに、そのグループにいる一人から別のグループに紹介してもらって、とネズミ算式にLINE上での友だちを増やしていったのです」

 LINEで繋がった見ず知らずの男に、自らの裸の写真をいとも簡単に送ってしまう少女たち。

「ほとんどの大人は、なぜそんな危ないことをと思うでしょうが、今の子供世代は、インスタグラムやティックトックなどで、スクール水着で踊る子の動画や写真など、自分と同年齢の子たちが投稿した動画や画像をいくらでも見ることができます。そんな環境にいれば、自分の画像を送るという行為に対する抵抗感が薄れるのは当然のことです」(同)

 もっとも、加害者側とていきなり「裸の画像を送れ」と言えば警戒心を持たれるのは分かっているから、段階を踏むことが少なくないという。

「一般的な手口だと、ペットを飼っているといった話題を出し、少女が“猫を飼っている”と明かすと、“猫の写真送って”と持ちかける。それが届くと、“次は猫と○○ちゃんが一緒に写っている写真が見たい”などと誘導し、本人の顔の写った写真を送らせるのです」

 と、石川氏。

「顔だけならいいかと思って送ってしまうと、今度は“超かわいいね”とか“好きになっちゃいそう”などと言って女の子の自尊心をくすぐる。12歳くらいだと、ちょうど恋愛や異性に興味が出てくる年代でもあります。そこでイケメンの大学生といった設定だと、恋愛までいかなくてもドキドキする。その気分の盛り上がりを利用するのです」

 そこまでの関係性が構築できたとしても、「裸の画像を送って」と直接的な依頼をすることはない。

「“今度の夏休みに海に行こうよ”と誘うなどして冗談っぽく“こんな水着を買った”と、半分尻が出ている写真を送り、“○○ちゃんもちょっとお尻が見えている写真送ってよ”などと言ってきわどい写真を送らせる。断ったとしても、“今までのやり取りをツイッターで公開するから”などと豹変し、脅して裸の画像を送らせたりします」(同)

「リアル」に置き換える

 NPO法人「人身取引被害者サポートセンター ライトハウス」の相談員は次のように話す。

「すでに画像を送り、それによって脅されている状況だと、本当に子供たちは追い詰められてしまいます。送ってしまった自分が悪いと自分を責め、誰にも言えず追い込まれていく子が多いのです。そうした心理状態では、従うしかないんだと思わされてしまいます。そして、加害が続くことでどんどん傷が深くなるケースが多い。加害者は“送ったあなたが罰せられる”などと嘘を言って脅すこともあります」

 さらに、先の石川氏によるとこんなケースも。

「裸の写真を送ってしまい、ネットにばらまかれたくなかったら会いに来いと脅されて悩んでいるところに、“私もあいつにひどい目にあわされた。相談に乗らせて”という女性から連絡が来て、会いに行くと、そこにいたのは当の脅してきていた男性。構造としては振り込め詐欺と同じで、何役かを一人でやるわけです」

 映画の男たちはケダモノとしての素顔を隠さずに少女に接近していたが、我が国ではケダモノの本性を隠した「なりすまし」による性被害が多いわけである。

「女児に性的暴行をして逮捕された、ある被告男性は、それ以外でもマッチングアプリでシングルマザーと知り合っていた。そして、彼女と親しくなった後、子供を預かるなどといって8歳と4歳の姉妹にわいせつな行為をしていました」(フリーライターの高橋ユキ氏)

 ここまでくると相手方の「真意」を見抜くのは不可能と言えよう。となれば、ケダモノがうようよしている異様な世界と子供たちを繋げてしまうSNSやアプリを“遮断”するしか方法はないように思えるが、認定NPO法人「3keys」代表理事の森山誉恵氏はこう語る。

「SNSを禁止するのでは、根本的な解決にならないばかりか、家庭にも学校にも居場所がない子供の場合、絶望が増すだけ。そうした子供にとってSNSは今では唯一の逃げ場ですから、代わりを用意せずにそれを奪うのはかなり残酷です」

 では、被害を防ぐにはどうすればよいのか。

「子供たちに危険性を知ってもらうしかないと思います。実際チェコではこの映画の“エデュケーションバージョン”を作り、12歳前後の世代に見てもらうという取り組みが教育現場で行われています」(前出の配給会社の担当者)

 石川氏は、

「問題は、親の多くが無知ということです。性被害なんてちょっと別の世界のようだと感じていたり、特に根拠もなく、うちの子は平気、と考えている親がとても多いのです」

 と、世の“親たち”に苦言を呈した上でこう話す。

「子供を諭す際、『リアル』に置き換えて説明するのは有効だと感じています。繁華街などで知らないおじさんとかたくさんの人に自分の写真をばらまくのってどう思う?と聞くと、子供は“絶対に嫌”と言う。“自分のアカウントなどで安易に顔写真をさらすのは、街中で写真をばらまくのと変わらないんだよ”と言うと皆、理解するのです」

 映画では子供たちと「話し合う」ことを勧めていたが、子供への話し方には工夫が求められそうである。

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週刊新潮 2021年5月27日号掲載

特集「『10代少女』『親』は必見 チェコの衝撃ドキュメンタリー『SNSー少女たちの10日間―』が暴いた性的虐待」より

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