岸防衛相が抗議 「朝日・毎日」のワクチン接種「ニセ予約」報道は是か非か

国内 社会 2021年5月22日掲載

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 ようやく始まった新型コロナウイルスワクチンの大規模接種を巡り、場外乱闘が起こっている。

 接種予約のサイトに入力する接種券番号がデタラメであっても、予約が可能になる――そんな報道をした朝日新聞出版のニュースサイト「AERA dot.」と毎日新聞に対して、政府側が激怒。その不備を確認するために、記者たちは実際にデタラメの番号を入力してみたという。

 これに対して岸信夫防衛大臣は、「悪質な行為」と断じて法的措置もちらつかせている。

 河野太郎ワクチン担当大臣も会見で「65歳以上でない方が面白半分に予約を取って65歳以上の方の予約を邪魔し、それを誇っているかのような行動」だとして、両社の報道姿勢を批判している。

 一方で、こうした政府側の主張を批判する人たちもいる。

 枝野幸男・立憲民主党代表は、欠陥システムを「調査報道」的に伝えたメディアを責めるのは「見苦しい責任転嫁」だと会見で述べ、「悪いのは政府だ」という立場を表明している。

 また、ジャーナリストの江川紹子氏はネット上の記事「『ワクチン予約システムに欠陥』~この報道は犯罪?不適切?~メディアへの抗議や批判を検証する」で、

「(1)果たしてこれらの記事は犯罪と言えるのか、(2)これらの報道は倫理的に正当なものと言えるのか」

 について専門家に聞いた意見を紹介しながら、次のように述べている。

「記事が不正な手口を教えるようなものだ、と言う人がいる。

 しかし、予約の受付が始まってまもなく、少なくとも4メディアの取材者が気づいた問題点である。妨害しようという悪意のある人が、記事を見るまで気づかない、と考える方がナイーブ過ぎる。

 むしろ問題は、欠陥が分かっていても、それを伏せて受け付け開始をしなければならないスケジュールを組んだ側にある」

 これも枝野氏に近い見解だと言えるだろう。権力を監視し、政府や政策の問題点を摘出して指摘するのがジャーナリズムの使命である、という考え方からすれば、今回の報道もまたその文脈に従って正当なものだということになる。

 ただ、論理的に見た場合、江川氏のような主張にもいささか強引なところがあるかもしれない。

 江川氏は勝手に「妨害しようという悪意のある人」ならば、報道を待たずしてシステムの欠陥に気づいていたはずだ、と決めつけているが、そう断定はできないだろう。

「悪意」というほどのものはなくても報道を見て「ホントかな?」と興味本位で試してみる人がいても不思議はない。それはただでさえ混雑している予約システムをさらに混雑させることにつながるだろう。

 また、欠陥を「伏せて」スタートしたことについて問題があるとしても、その欠陥を周知することに公益性があるかも議論が分かれるところだろう。

 たとえば自衛隊基地や原子力発電所のような重要な施設に欠陥があることがわかったとして、「記者がここから潜入しました」「ここから攻撃可能です」という記事を手口まで言及しながら出した場合、支持を得ることができるだろうか。

マスコミの「権力」との向き合い方

 ジャーナリストの佐々木俊尚氏は、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演して、江川氏とは対照的に、朝日・毎日側に厳しい評価を下している(5月19日放送)。

 佐々木氏の主張はまとめると、「システムの不備を伝えるのは重要な仕事だが、その手口まで詳細に明かす必要はないのではないか。それは単に模倣犯のような、同じことをやって世間を惑わす人を増幅させるだけではないかということも、ジャーナリズムは考えた方がいい」というものだ。

 さらに、大きな視点として、ジャーナリズム側はすぐに「権力の監視」と言いたがるが、その目的は「世の中をよくするために政府の暴走を防ぐ」ことにあるのであって、「権力の監視」そのものが目的となってはいけない、と戒めた。

 同番組のパーソナリティ・飯田浩司氏も著書『「反権力」は正義ですか ラジオニュースの現場から』で同様のことを書いている(以下、同書から引用)。

「例えば、『マスコミの使命は権力と戦うことだ』という意見をよく聞きます。実際にニュース番組をやっているとそうした趣旨で諭されることもあります。

 なるほど、国が進むべき道を誤りそうなとき、マスコミが警鐘を鳴らすべきだという意味では完全に同意します。ならば、報道に携わる人間は政策についてよく学び、国民への影響、メリット・デメリットを是々非々で評価すべきなのではないでしょうか。(略)

『マスコミの使命は権力と戦うことだ』という言葉は本来、民主主義を守るために必要な倫理観によって調査報道を行うジャーナリズムの精神を体現したものと、私は理解しています。ところが、それがいつの間にか『権力と戦う自分たちの物語』にすり替わっているように見えてなりません。私は、この『権力と戦う』という言葉が本来の精神を失ってそれ自体が目的化し、マスコミ報道から“是々非々”という姿勢を奪い、自らを闘士に据えた陶酔の物語に引きずり込んでいるようにも見えてしまうのです。周りから見れば、もはやマスコミは特別な存在ではないのに」

 政府の新型コロナウイルス対策で、国民の多くが抱えている不満は、1年以上経っても充実しているように思えない医療体制、感染を抑えるための最適解とは見えないワクチン接種の優先順位、エビデンスが不明な自粛要請等々にあるのではないか。

 ところが、実際には不思議なほど大手メディアは、こうした問題点については深く追わない。

「まん延防止等重点措置」「緊急事態宣言」については、政府や自治体の発表を垂れ流して、批判的な視点は前面には出ていない。

 一方で、ハッカーまがいの行為で「欠陥システムだ」と指摘して現場に負担をかけることが、本当に国民のメリットになるかどうか、見方が分かれるところではないか。

デイリー新潮編集部