大半が2年で消える「K-POP」アイドルグループの熾烈なキャラ戦略 BTSが使った「黄金の一手」とは

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

Advertisement

アイドルの設計士A&Rの仕事

 アイドルのこうした緻密なグループコンセプトには、レコード会社でアーティストの育成とプロデュースを行う「A&R(アーティスト&レパートリー)」という職種が大きく関わってくる。ユニバーサルミュージック・コリアでA&Rを務めるパク・ソヒさんにその仕事内容を具体的に聞いた。

「所属アーティストが出すアルバムの企画がメインの仕事です。SMエンターテインメント、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメントといった、所属するアイドルをプロデュースする芸能事務所のA&Rと、シンガーソングライターなどアーティスト本人が曲作りもする事務所のA&Rとでは、立ち位置は少し異なります。アイドルが所属する芸能事務所は、メンバーたちにどういうコンセプトの活動をしたいかをヒアリングすることはあまりありません。アートディレクターやプロデューサーたちがアイドルをひとつの作品と考え、コンセプト、トーンアンドマナー、ムードの細部にいたるまでディレクションをし、具体的な活動の年間スケジュールを立てていきます」

 アイドルを担当するA&Rは、作曲家から届いたトラックがコンセプトに合うかどうか判断し、入れるならどんな歌詞かを相談して作詞家に連絡する。アイドルの楽曲とビジュアルは切り離せないため、リリースまでの一連のディレクションをアートディレクターと二人三脚で行っていることが多い。アルバムが出たら終わりではなく、MV、パフォーマンス映像、コンサート公演と、コンセプトが一貫するよう企画を練り上げるのもA&Rの仕事だ。

 そんなA&Rの体制は会社の規模で違うようだ。「自社にA&Rがいる大手事務所にはコンセプトだけを考える専門チームが他にいたり、小さい会社だと社全体で話し合って考えていたりと、会社の大きさによってアイドルグループのコンセプトの作り方はさまざまです。会社が大きければいいということでもなく、たとえばEXIDやチョンハ(*1)のように、会社がコンセプトをすべて指定するのではなく、カムバックごとにスタイリストやヘアメイクからもコンセプトを提案してもらって成功している場合もあります」(パク・ヒア)

 数々のデビュープロジェクトに関わってきたSINXITYさんに、YGエンターテインメントの新グループの立ち上げについて伺ってみると、「同じ事務所の中でカブらず、今のマーケットの隙を狙えて、かつ今後ファンが好きになりそうな潜在的需要までを考えるのが大前提」と話してくれた。

(*1)チョンハ 「PRODUCE」出身グループのI.O.Iの一員としてデビュー後、ソロ歌手に。自ら振付に参加するほど高いダンススキルを持つ。セクシーなコンセプトも多いが、健康的な美しいスタイルとエネルギッシュな踊りが元気を与えてくれる。

コンセプトの“作り方”

 SINXITYさんが手がけたYG2組目のボーイズグループであるWINNERは、デビュー前から「BIGBANGの弟」だと、世間の大きな期待が寄せられていた。そんなWINNERのデビュー前後の2014年には、K-POP界の王者的存在だったBIGBANG(2006年~)の影響を強く受けた、ヒップホップテイストやパワフルな男らしさを押し出したボーイズグループが多かった。大手のSMも気合いを入れたビッグプロジェクトのEXOを仕掛けた直後で、K-POPファンはもう強いコンセプトに飽きてきているのではとSINXITYさんは考えた。そこで新グループは、それまでのK-POPシーンにはいなかった、「付き合いたくなるような身近なかっこよさを持った男の子」をコンセプトにしたという。当時流行していた賑やかで激しい音楽よりは耳馴染みのいい音楽が売れそうだと予想し、「ニューヨークのシティボーイ」をキーワードにグループの音楽性やファッションのアイデアを膨らませていった。

 さらに、SINXITYさんは舞台上のWINNERを見て「モデル」を着想し、そこに「品が良い財閥のおぼっちゃまたちがお金がありすぎるあまり暇つぶしにモデルになった」というストーリーを加えた。これらの設定やストーリーをもとに、YGのA&RチームはWINNERのグループコンセプトを細かくビジュアルに落とし込んでいく。デビューアルバム名はまさしくファッションコレクションのように「2014 S/S」とし、わざわざニューヨークまで行って撮影したハイブランド広告のような写真を使って、「ファッションウィーク」をテーマにしたティザープロモーション(新曲のヒントとなるイメージや写真を小出しに発表すること)を入念に設計していった。

 まず、当時のメインSNSであったフェイスブックにティザー動画を突如発表し、その2日後に実際のファッションウィークのように3つのプロモーション期間が書かれた予定表をアップした。期間中、ショーモデルのテストシューティングやリッチな学生がニューヨークで夜遊びするイメージのティザー画像がアップされ、最終週にはメンバーごとにシチュエーションの異なるティザー動画がアップされた。

デビュー4日での史上最速首位

 ファッションショーのチケットを模してショーケース開催日とアルバム発売日が記載された画像を公開し、続くティザー映像ではショーの舞台に上がる前の控え室にいるメンバーの様子を描き、晴れて迎えるデビューショーケース「GRAND LAUNCH」は韓国の一流ホテルで行った。ショーケース後もすぐに、ファッションショーのプレス写真のような公演中の画像をアップしている。

「モデル×ファッションショー」を軸に2か月前からじっくり仕込んだプロモーションが功を奏し、WINNERはデビュー後わずか4日にして音楽番組で1位を獲得し、韓国アイドルグループ史上最速首位のこの記録はいまだに破られていない。これは予告そのもののスケジュールを予告する「ティザースケジュール」(ティザーのティザー)を初めて用いた事例でもあり、BIGBANGの弟グループという世間の期待を、綿密なコンセプト作りとそれを効果的に見せるティザーによって鮮やかに裏切る成功例となった。

次ページ:飽和状態のグループコンセプト

前へ 1 2 3 次へ

[2/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。