「おかえりモネ」はいきなり「おちょやん」超え、「世帯視聴率はあてにならない」は誤解

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 5月17日からはじまったNHK連続テレビ小説の新作「おかえりモネ」(月~土曜午前8時)の初回の世帯視聴率が、19.2%を記録したことが、ビデオリサーチ調べで分かった。前作「おちょやん」の最終回は18.4%だったので0.8%アップ。理由を読み解きたい(世帯視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。

 朝ドラの合格水準である世帯視聴率20%には届かなかったものの、19.2%。いきなり「おちょやん」の最高世帯視聴率18.9%(3月5日放送)を抜いた。

 初回は緊迫した場面で始まった。1995年9月、宮城県気仙沼湾の亀島に住む永浦亜哉子(鈴木京香、52)が産気づき、本土の病院に運ばなくてはならなかったが、島は台風12号によって暴風域に。商船はすべて欠航していた。

 亜哉子を本土に運ばないと、お腹の子供は死ぬ。亜哉子の夫の耕治(内野聖陽、52)は幼なじみの漁師・及川新次(浅野忠信、47)に電話をかけ、泣きながら懇願した。

「新次、頼む! 島から出してやってくれ!」

 新次は荒天を見つめ、一瞬だけ表情を曇らせたが、「船出してやっから」と約束する。そして生まれたのがヒロインのモネこと百音(清原果耶、19)だった。

 うまい構成だった。いきなり見せ場から入り、視聴者を引き込んだ。演出も心憎かった。内野は泣きの演技が得意。「きのう何食べた?」(テレビ東京、2019年)で演じたケンジの大泣きが記憶に新しい。一方、浅野には強い男性役が似合うのはご存じの通りである。

 世帯視聴率がアップした第一の理由は、主な出演者の訴求力が高かったことにあるだろう。清原や豪華な共演陣が視聴者側にとって魅力的だったのだ。

 モネは高校を卒業したばかりという設定。一代記ではないので、子供時代は描かれない。これも良かったと思う。浪花千栄子さんをモデルにした前作「おちょやん」から、2作続けての一代記はきつい。また、現代劇は2018年度前期の「半分、青い」以来3年ぶりなので、新鮮だった。

 清原のドラマ出演は2019年の「俺の話は長い」(日本テレビ)以来だった。これもプラスに働いたはず。違う役柄のイメージが拭い去られていた。

 東日本大震災の被災地の今と未来を見つめる作品であることも大きい。震災から10年。今年3月のYahoo!ニュースのアンケートによると、被災地に大いに関心があると答えた人は68.2%に達した。ある程度関心があると答えた人も18.7%。(10万1651人が投票)。日本人の被災地への思いは強い。

 朝ドラに限らずドラマの初回は状況説明があるので、清原の出番はそう多くはなかった。ただし、清原という役者の特性の一部は垣間見られた。

 その1つは、置かれた立場や場所によって表情や顔つきが変動するところ。前半、晴れわたる空の下で溌剌と洗濯をしている時の顔は少女だった。ところが、宮城県登米市で下宿させてもらっている新田サヤカ(夏木マリ、69)と一緒に森へ入って歩いている時の表情はあどけない少年のように見えた。

 生身の人間の顔つきや表情も時間帯や気分によってめまぐるしく変動する。清原は役づくりについて「考えぬく」と語っているが、それによって演じる人物になり切るから、顔つきや表情が自然と変化するのだろう。

 初回は冒頭こそ緊迫していたが、その後はずっと明るい場面が続いた。世相が暗いだけに歓迎した視聴者は多いのではないか。

 抜けるような青空や広大な森が何度もインサートされるから、画面そのものも明るい。これもコロナ禍で外出自粛を余儀なくされている視聴者にとって、救いになった気がする。

「世帯視聴率はあてにならない」?

 放送終了後、ツイッターのトレンドランキングで一時1位に。

 このままいくと、朝ドラの合格ラインである世帯視聴率20%をとる日も遠くはないと読む。

「初回から20%台をとるのでは」という見方もあった。だが、1度落ち込んだ世帯視聴率を急浮上させるのは難しい。見る側の視聴習慣が変わっているからだ。

 以下、最近の朝ドラの最終回と初回の世帯視聴率を並べた。1%上げるのは至難の業なのだ(カッコ内は前作の最終回と今作の初回の世帯視聴率の差)。

■2018年度前期「半分、青い。」初回21.8%、最終回23.5%
■同後期「まんぷく」初回23.8%(0.3%アップ)、最終回22.4%
■2019年前期「なつぞら」初回22.8%(0.4%アップ)、最終回21.8%
■同後期「スカーレット」初回20.2%(1.6%ダウン)、最終回20.5%
■2020年度前期「エール」初回21.2%(0.7%アップ)、最終回21.8%
■同後期「おちょやん」初回18.8%(3%ダウン)、最終回18.4%

「おちょやん」が多くのファンに愛された朝ドラだったのは間違いない。半面、異例と言っていいくらい世帯視聴率が低かったことも動かしようがない。それまで否定するのは反事実的思考にほかならない。

 こう書くと、「そもそも世帯視聴率はあてにならない」という声が上がるかもしれない。最近の風潮のようだ。とはいえ、世帯視聴率を無意味だとするテレビマンは存在しない。

 逆に、このところ複数のテレビマンの「視聴率への誤解が酷くなっている」との嘆きを耳にした。ツイッターで、実名と局名入りで怒りを表明しているテレビマンすらいる。

 視聴率は基本的に2種類あるのは知られている通り。どこの家庭が見ているのかを測る世帯視聴率と、誰が見ているのかを調べる個人視聴率である。現場のテレビマンはどちらの視聴率も意識しているのだ。

「うちの局は世帯視聴率が悪くても49歳以下の個人視聴率が良いと打ち切りにならない。あるアクション型バラエティーがそう。2つの視聴率を併用している。世帯視聴率に意味がないなどと言う人間はいない」(民放制作幹部)

 そもそも2つの視聴率には相関性がある。どちらかだけが良かったり、悪かったりということは起こり得ない。日本は少人数世帯が多いのだから、そうなるのは当たり前だ。個人視聴率の2倍弱が世帯視聴率の近似値になると考えられている。

 個人視聴率を真っ先に推進した日テレも世帯視聴率との相関性を認めている。個人視聴率の7.5%は世帯視聴率の12~13%にあたるなどと考えている。やはり個人視聴率の2倍弱が世帯視聴率である。

 NHKも個人視聴率はチェックする。もっとも、受信料は世帯ごとに徴収するものだから、強く意識するのは世帯視聴率だ。

 また昨年4月、動画を同時・見逃し配信する「NHKプラス」がサービスを開始した。これで朝ドラを見る人もいるはず。とはいえ、今年2月時点での登録件数は122万件。世帯視聴率に換算すると1%程度にしかならない。NHKプラスの存在によって世帯視聴率が大きく動くことは現時点ではない。

 朝ドラを録画で観る人もいるが、「おちょやん」は録画視聴率も低かった。「エール」の多くが8%台だったのに対し、6%台が目立った。

「そもそも視聴率なんて無意味」。その通り。見る側は視聴率の結果を知らなくたって困らない。とっておきのドラマが低視聴率ということは珍しいことではない。

 半面、映画の配給収入は厳然たる結果で、重く受け止められる。例えば配収で大惨敗した監督は次回作が撮りにくくなる。視聴率の性質も同じ。

 朝ドラは合格ラインが世帯視聴率20%とされているからこそ、ハイクオリティーが保たれている一面がある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月19日掲載

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