大坂なおみ“ラケット破壊”の波紋 元プロが明かす「批判されても叩き続ける理由」

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テニスと「メンタル」

「ミスを引きずると、集中力が失われます。『何で、あんなミスをしてしまったんだろう』と頭の片隅でくよくよ考え続けると、たちまち対戦相手に付け込まれます。その時点で敗北が決定してしまうのです。だからこそ選手は、批判や罰金は承知の上でラケットを壊し、ミスの後悔を断ち切ろうとする。集中力を取り戻して試合に臨んだほうが得策だと判断するわけです」(同・神和住氏)

 この背景には、テニスは「メンタル」が勝敗を左右することが大きく関係しているという。

 陸上や水泳が個人競技であることは言うまでもない。だが、100メートル走や、50メートル自由形などは、決勝は8人で争われる。

「テニスはシングルの場合、対戦相手と2人きりです。実力が伯仲するほど、精神的な駆け引きが勝敗を決めます。『相手は緊張している』、『相手は慢心している』などと対戦相手の心理状態を読み、揺さぶりをかけるのです。おまけに試合時間も長くなることが珍しくありません。接戦になると3時間や5時間に達します。ただでさえ集中力は途切れがちで、モチベーションの維持が大変なのです」(同・神和住氏)

 テニスと似たスポーツである卓球やバトミントンでは、選手がラケットを破壊する場面は少ないという印象があるだろう。

「温かい目」

「正確に言えば、卓球やバトミントンでもゼロではありません。卓球もバトミントンも室内競技ですから空調が効いています。試合時間もテニスよりは短いです。一方のテニスは屋外で、コートを縦横無尽に走らなければなりません。肉体だけでなく精神面でも選手に大きな負荷をかけるのです。その分、イライラすることも増えます」(前出の記者)

 神和住氏はラケットを壊す行為を批判する意見に理解を示す。だが、「それでも、温かい目で見守ってほしいという気持ちもあります」と言う。

「昔のテニスは、もっとのんびりしていました。そして何より、人間臭いスポーツだったのです。審判のミスジャッジは当たり前で、だからこそ審判に暴言を吐くマッケンローがスターになったのだと思います。ところが現代のテニスは、判定がほぼ自動化されるなど、もはや審判がいない試合も技術的には可能です」

 選手も“マシーン”のようなタイプが増えてきた。常に冷静で、感情を押し殺す。機械のような正確なプレーで観客を魅了する……。

 こうなると審判も選手も人間味が感じられないようになり、試合における「人間ドラマ」の要素が減っていく。

「ところが、選手がラケットを壊す時には、感情の爆発があります。アスリートとしての厳しい自制心を捨て、人間性をむき出しにするわけです。確かにラケットを壊すことは批判されて当然です。スポンサーであるメーカーの方々も不快に思われるでしょう。しかしながら、選手のいかにも人間らしい“愚行”も、プレーと同じように楽しんでいただければ嬉しいなと思います」(同・神和住氏)

デイリー新潮取材班

2021年5月18日掲載

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