リコカツ、紘一の自宅は基地から遠すぎる…“ドラマと現実”は違う自衛官の生活

エンタメ 芸能 2021年5月7日掲載

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 TBSの連続ドラマ「リコカツ」(金曜午後10時)が面白い。米ドラマ「奥様は魔女」(1964年)は極端な例だが、立場や考え方が異なる夫婦の物語はホームコメディの定番の1つ。ファッション誌編集者の咲(北川景子、34)と航空自衛官の紘一(永山瑛太、38)は別れてしまうのか、それとも――。

 デイリー新潮は4月30日、「自衛隊員のリアルな“カネと結婚”事情」と題した記事の中で、紘一の通勤が一苦労であることを報じた。

 紘一の勤務先は、ドラマでは名前が出てこないものの、外観や職務内容からして航空自衛隊の百里基地(茨城県小美玉市)にほかならない。霞ヶ浦の北に位置し、紘一と咲が住む都心(どうやら目黒区内)からは約90キロメートルある。車なら高速道路を使っても片道約1時間半もかかるから大変だ。

 そもそも自衛隊法に基づく訓令は、自衛官の遠距離通勤を禁じている。だが、ここは紘一が上官から特例で許可を得たと考えよう。

 紘一は4月30日放送の第3話で午前5時半に出勤。2人の新居に居候する咲の母親・美土里(三石琴乃、53)を驚かせた。

「基地は茨城だっけ。ご実家から通ったほうが全然近かったでしょう」(美土里)

「咲さんがここを気に入ったので…」(紘一)

「えーっ、じゃあ咲のせいで、こんな遠距離通勤になっちゃったの」(美土里)

「違います。自分がそうしたかったのです。咲さんに遠距離通勤はさせられません。万が一、自分に何かがあった時、都内のほうが咲さんのご実家に近く、咲さんが安心してくらせると思ったからです」(紘一)

 離婚に向けて走り始めている2人だが、どうやら紘一はまだ咲を愛している。

関係者から「あり得ない」の声

 また、「自分に何かがあった時」という言葉は決してオーバーではない。紘一は空自の超エリート集団である航空救難団のメディック(救難員)。隊員の能力の高さと装備の充実から「人命救助の最後の砦」と呼ばれているが、夜間や荒天など危険な状況でも出動するため、殉職者が後を絶たない。訓練中に殉職するメディックもいる。

 2017年には浜松基地(静岡県)のメディックたちが乗ったUH-60J(救難ヘリコプター)が夜間捜索訓練中、行方不明になった。後に墜落が判明。3人が殉職し、1人が行方不明になった。なぜ危険な夜間での訓練も行うかというと、そうしないと実践での夜間救助が円滑に出来ないからだ。

 1985年8月12日、日航ジャンボ機墜落事故の際もメディックは事故直後から出動した。墜落が確実と見られていた同午後7時54分、災害派遣要請がないまま飛び立った。異例だった。

 その後、サーチライトを使い、墜落現場の特定を急いだ。現場を早く突き止めることが人命救助につながると考えたためだ。やがてメディックたちは陸自第1空挺団と連携。最終的には陸自ヘリが4人の生存者を救出した。

 筆者も墜落直後に現場である群馬県・御巣鷹の尾根に登ったが、現場が急斜面になっており、日中のホバリング(ヘリが上空で停止する状態)すら容易な場所ではなかった。

 事故直後はジェット燃料が燃え、気流が変わっていたことから、ホバリングはほぼ不可能。それでもメディックたちはパラシュートでの降下を検討していた。

「自衛官の任務は国民の命を守ることなんだから、当たり前でしょ」(航空自衛隊百里基地に勤務していた50代の元自衛官)

 このため、前回の記事の掲載後、自衛官の家族や関係者から「ドラマに自衛官が国民の命を危険にさらすシーンがあったが、あり得ない」という意見が相当数寄せられた。

 1等空曹の紘一に好意を寄せる3等空尉の純(田辺桃子、21)が、メディックたちのバーベキューパーティー後、咲を森の中に置き去りにしたシーンだ(第2話)。ドラマとはいえ、自衛官たちのプライドは傷ついたようだ。

 1話では紘一と咲の間でこんなやり取りがあった。ファッション誌編集者の咲は、紘一の普段着が気に入らない。

「たまには違う服買ってみない。イメージチェンジというか…」(咲)

「自分はこれで良い。こう見えて質実剛健、持ちも良い」(紘一)

 好みの問題だろう。百里基地内の売店にはアルマーニもコム・デ・ギャルソンもないが、迷彩色のTシャツ、305TFS(百里第305飛行隊)と刺繍されたキャップ、フライトジャケットなどが置かれ、自衛官は日常的に利用する。航空ショーを見るために基地を訪れた空自ファンも買い漁る。

 読者から寄せられた声の中には「紘一と咲の官舎での暮らしを見たかった」というものもあった。けれど結婚後の自衛官たちは官舎に住むことを義務付けられているわけではない。

 まず独身自衛官は基本的に駐屯地(基地)内の寮で暮らす。外で暮らす許可を申請できるのは独身なら曹長と1曹(紘一と同じ階級)。あるいは2曹で30歳以上の人だ。それ以外でも結婚と事実婚をした人などは申請できる。

「結婚より門限や諸規則のある寮を出られることを喜ぶ者もいる(笑)」(同・航空自衛隊百里基地に勤務していた50代の元自衛官)

 外で暮らし始めると、官舎や近隣のマンション、自宅などから通勤する。

「百里基地の官舎は小美玉市内にいくつもある。間取りも家賃もさまざまだが、3LDKで2、3万円ほど。安いが、古い建物ばかり」(同・自衛隊百里基地に勤務していた50代の元自衛官)

 官舎はお手ごろな家賃が魅力であるものの、オフの時間も自衛官同士で付き合うことになるのを嫌がり、住まない自衛官も珍しくない。

「うちの両親も官舎住まいを嫌がり、家を購入した。父親が転勤になった際には単身赴任した」(父親が海上自衛隊幹部だった編集者)

 片や、紘一はメディックの仲間が大好き。航空救難団隊長で救難ヘリコプターのパイロットである早乙女大2佐(池田大、35)らとのバーベキューに参加し、自分の新婚旅行壮行会を開くという声にも嫌がる素振りを見せなかった。本来は官舎向きなのだろう。

 ちなみに早乙女は温厚で親しみやすいが、2佐なので、とんでもなく偉い。トップの航空幕僚長から空将、空将補、1佐、2佐の順番なので、上から5番目。防衛大か一般大(幹部候補生)、あるいは航空学生出身のエリートにほかならない。

 純も3等空尉だから、やはり偉い。幹部だ。紘一は先輩であるものの、3階級下である。純は若いので同じく幹部への近道である防衛大などを出ているのだろう。

 紘一の30代での1曹もかなり早い昇進だ。3曹から2曹に上がるまでには最短4年、2曹から1曹に昇進するまでには最短6年かかるのだから。

 階級が違うと給料や部隊内での立場が異なるのは説明するまでもない。それより大きいのが定年の年齢が変わること。来年からは2曹と3曹が54歳。1尉から紘一と同じ1曹までは55歳、早乙女と同じ2佐と3佐は56歳、1佐は57歳となる。定年の年齢の違いが大問題なのは50代の読者ならご存じだろう。

 全体的に定年が早いのは、国防や人命救助には体力が欠かせないからだ。再就職は自衛隊が全面的にバックアップする。

 やはり自衛官だった紘一の父・正(酒向芳)の再就職先が気になる。亭主関白で母の薫(宮崎美子、62)を泣かせたが、頑固で偏屈だから、再就職先ではトラブルメーカーだったのではないか。

 ちなみに自衛官は大型自動車運転免許からクレーン運転士、電気工事士などの免許まで取るので再就職先には困らないとされている。空自では航空管制官や航空整備士の資格なども取る。

 咲は人命救助に身を賭している紘一に魅力を感じるようになるのか。それとも価値観のギャップを埋められぬまま別れるのか。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集