辛口コラムニストが選ぶ「お勧めのドラマ4本」 良質なコメディが増えた背景は?

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今、日本にコメディが増えるわけ

アナ:コメディ、というより良質なコメディが日本の連ドラに増えてきているとすれば、その背景には何があるんでしょう?

林:そんな大きなテーマ、急に振られても困るけれど……名前を挙げた4つの作品のうち「俺の家」「大豆田」「コント」3作は、見ていて思い出すのがニール・サイモンの「カリフォルニア・スイート」(1976年。映画化は78年)とか、ウディ・アレンの「アニー・ホール」(77年)とか、70年代のアメリカの傑作コメディなんだよね。アメリカがベトナム敗戦とかオイルショックとかで政治的、経済的、軍事的に停滞して、一方、社会は急変していた時代の作品。

アナ:なるほど。そういう停滞や急変というのは今の日本もよく似ていますね。

林:そうそう。“しなきゃいけないのは深刻な話なんだけれど、それを深刻に語っても、もうみんなおなかいっぱいです”というのがひとつ、“どうせ語らなきゃいけないなら愉快に語りたいのに、語るべき中身には愉快な話が見当たりません”というのがひとつ。そういう、苦しくて新しい時代にコメディを捻り出すというのは大変な作業だけれど、難産だからこその傑作・秀作というのも生まれてくる。

アナ:それが70年代のアメリカでは「カリフォルニア・スイート」や「アニー・ホール」といった映画で、2020年代の日本では「俺の家の話」や「大豆田とわ子」や「コントが始まる」といった連ドラであると。

林:そう。まぁ、商売での成功という面まで含めれば、映画の方は傑作でドラマの方は秀作ってことになるけれど。

アナ:考えてみると、70年代、それも後半のアメリカTVや映画というのは、今の日本のTVでのドラマや笑いを考える上でもいろいろ示唆に富んでいますね。どギツい社会風刺コントで有名な長寿番組の「サタデー・ナイト・ライブ」も確か……

林:75年放送開始です。「サタデー・ナイト・ライブ」は、おかしな世の中をストレートにおちょくる深夜番組だし、76年公開のシドニー・ルメットの「ネットワーク」は、おかしな世の中への違和感、嫌悪感を煮詰めてブラックジョークに仕立てた怖いコメディ映画だし、ホント、アナタの言うとおりで、アメリカのあの時代は今ニッポンで振り返ってみるとすごく面白い。

アナ:ありがとうございます。

林:ただ、「サタデー・ナイト・ライブ」や「ネットワーク」といった方向性は、自民党と総務省と電通に首根っこ掴まれてるニッポンのTVには今なお踏み込めない地雷原。言論・表現の不自由度は中国といい勝負だもんなぁ。だからこそ、男女とか家族とか友達とか、そういうドメスティック(非社会的)で炎上しにくいテーマを隠れ蓑にもできるコメディが増えているのかも。

アナ:それでも、「苦しくて新しい」という時代に連ドラに秀作コメディが出てきていることは歓迎していいんじゃないでしょうか。

林:そうね。「俺の家の話」や「にじいろカルテ」は今からでも多くの人になんらかの形で見てほしいし、放送の始まった「大豆田とわ子」と「コントが始まる」も、これまで見てきたかぎりでは大いにお勧めです。というのも、今期の秀作候補2本には、前期の秀作2本と共通点があって……。

アナ:どんな点ですか?

林:それは別の記事になる後編で!

【了】

林操(はやし・みさお)
コラムニスト。1999~2009年に「新潮45」で、2000年から「週刊新潮」で、テレビ評「見ずにすませるワイドショー」を連載。テレビの凋落や芸能界の実態についての認知度上昇により使命は果たしたとしてセミリタイア中。

デイリー新潮取材班編集

2021年5月3日掲載

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