「ドラゴン桜」と重なる阿部寛の役者人生 長い下積み時代を支えた事務所社長“秘話”

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歩みと重なる「ドラゴン桜」

 阿部はデビュー当初のことを「なぜ同じ世代の役者がそれほどまで役にこだわれるのか、わかりませんでした」(*2)と振り返ったことがある。

 だが、低迷期を経験したことで奮い立つ。健さんのドラマに出た後、今度は稽古が猛烈に厳しいことで知られる故・つかこうへいさんの舞台に出演した。今も出演陣を変えて上演が続く「熱海殺人事件 モンテカルロ・イリュージョン」(1993年)である。主人公でバイセクシュアルの部長刑事・木村伝兵衛を演じた。

「突拍子もない役でしたけど、このチャンスは絶対に成立させなくてはならないぞと、覚悟しました」(阿部*3)

 厳しい稽古が実を結び、舞台は成功。阿部は高く評価された。その余勢を駆るように1996年にはNHK「金曜時代劇 天晴れ夜十郎」に主演。第一線役者の仲間入りを果たす。

 「ドラゴン桜」の前作で阿部が演じた桜木は、東大を目指す落ちこぼれ生徒たちにこう説いた。

「東大受験に一番大切なもの。それは、勉強ができないことを悔しいと思う心だ」

 役者としての阿部の歩みと重なり合う。彼も低迷をバネにした。

 前作の全話平均の世帯視聴率は16・4%。東大合格発表日を描いた最終回は20・3%をマークした(ともにビデオリサーチ調べ、関東地区)。堂々のヒット作だった。

 生徒役の役者が粒ぞろいで、演じた役柄も魅力的だったことも人気を押し上げた。山下智久(35)が演じた勇介は親分肌、長澤まさみ(33)の直美は健気、中尾明慶(32)の一郎は心優しい、小池徹平(35)の英喜はサービス精神旺盛、新垣結衣(32)のよしのはコギャル、紗栄子(34)の麻紀はアイドル志望。それぞれが個性に満ちていた。

 前作は受験期の10代、受験の記憶が鮮明な20代から圧倒的な支持を得たとされている。それより上の世代も引き付けた。合否はともかく、受験に全力を尽くすことに価値がある、というメッセージが込められていたからだ。

 そのメッセージを象徴するシーンが見られたのは最終回。英喜は東大を落ち、憔悴していた。すると、英喜をずっと見下し続けてきた一橋大出身の父親・厚生(須永慶、77)が態度を一変させ、「おまえはよく頑張った!」と強い口調で讃え、励ましたのだ。

 単なる受験ドラマではなく、受験生同士の友情や家族愛も描いたヒューマンドラマだったから、新作が待ち望まれ、話題になっているのだろう。

 一方、前作で紹介された「英語の学習は読解より英作文をすべし」といった勉強法の数々は塾や高校の進路指導部で反響を呼び、採り入れた教師もいた。

 桜木の「世の中に超えられない壁なんてねぇんだ!」という言葉に刺激を受け、志望先を東大にした生徒も少なくない。週刊誌の東大合格者インタビューではよくこのドラマの名前が挙がる。

 虚構であるはずのドラマが現実の受験界に影響と刺激を与えたわけで、異色作だった。続編が早々と話題なのも納得である。

*1 Pumpkin 2018年5月
*2 同
*3 家庭画報 2018年4月

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月25日掲載

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