池江璃花子の復活を利用する電通と「なべおさみ」 「僕は神だから」と豪語

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 リレー2種目での東京五輪出場を決めた競泳の池江璃花子(20)。白血病公表からの復活劇は多くの人の心を揺さぶったが、そんな奇跡のウラでは算盤をはじく音が聞こえる。開催機運が全く盛り上がらない五輪の救世主たる彼女にすがろうとする、「大人たち」の思惑。

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 我々が目撃したのは“奇跡のような出来事”ではなく、奇跡そのものだったと言えるのかもしれない。

「池江さんの復活は、我々の想像をはるかに超えていました。少なくとも私の経験上は見たことがなく、あり得ないことです」

 医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏はそう語る。

「一般的には造血幹細胞移植手術の後はなかなか体力が戻りませんから、1年ほどはしっかり休んでもらいます。しかし池江さんは手術の約1年後には競技会に出るまでに回復しました。これだけでも驚異的ですが、それから1年も経たないうちに日本代表選手に選ばれるなんて信じられません」

 池江が白血病と診断されたことを公表したのは2019年2月である。その年の夏に造血幹細胞移植手術を受け、年末に退院。翌年3月17日、実に406日ぶりにプールに入り、8月に行われた東京都特別水泳大会で実戦復帰を果たした。

 それから約8カ月――。

 東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権に臨んだ池江は、まず4月4日に100メートルバタフライ決勝を制して400メートルメドレーリレーの代表に内定。さらにその4日後には100メートル自由形の決勝でも勝利し、自由形の400メートルリレー代表の座もつかんだのだ。4日、100メートルバタフライ決勝後のインタビューで池江がむせび泣きながら、「勝てるのはずっと先のことだと思っていた」と言葉を絞り出す姿に心を揺さぶられた方は多かったに違いない。

 池江の涙の復活劇は海外メディアでも報じられたが、中でも注目すべき記事を掲載したのは、五輪の放映権を有する米NBCの電子版。8日付の記事で池江について次のように指摘したのだ。

〈オリンピックの開会式は7月23日に開催される。大会初週の週末に競技を控えている世界的なトップスイマーが開会式への参加を見送ることはよくある。しかし、もし池江が参加するのであれば、旗手、選手宣誓、聖火の最終点火者といった重要な役割を担う最有力候補である〉

 現役選手が聖火の最終点火者となるのはごくまれではあるものの、2000年のシドニー五輪でアボリジニの選手が務めたようなケースもある。開会式でメイン会場の聖火台に火をともす最終点火者が池江となった場合、世界規模で大きな話題になるのは間違いないが、それが現実となる可能性はどれくらいあるのか。

「はっきりとした根拠はありませんが、池江さんが聖火の最終点火者を担う可能性はフィフティー・フィフティーくらいはあるのではないでしょうか」

 と、元JOC職員でスポーツコンサルタントの春日良一氏は話す。

「ただ、開会式にすら出ないことの多い競泳の代表選手に、開会式の演出部分の仕事を担わせていいのかという問題は当然、出てきます。競技団体である日本水泳連盟が、池江さんを最終点火者に起用する案をすんなり受け入れるとは思えません」

 スポーツジャーナリストの谷口源太郎氏は、

「この件をNBCが報じたということは大きな意味を持っていると思います」

 として、こう語る。

「IOCに10大会分で1兆円を超える莫大な放映権料を支払っているNBCですから、日本国内のメディアが報じるのとはわけが違う。『池江に聖火の最終点火者をやってほしい』、あるいはもっと強く、『そうしなさい』というNBCのメッセージと取ることもできます」

「開催の切り札」

 池江と聖火といえば、昨年7月23日に五輪組織委員会が開催した「記念イベント」を思い出す方もいるかもしれない。新国立競技場で聖火がともされたランタンを掲げた池江が、

〈1年後の今日、この場所で、希望の炎が輝いていてほしいと思います〉

 毅然とそう述べるシーンは多くの人を感動させたが、その一方、

「病から復帰したばかりの池江を“大人の事情”で酷使するのは控えたほうがいいのではないか」

 との声もあった。

 当時、池江は東京五輪の4年後のパリ五輪に照準を合わせて練習を再開していた。そんな彼女が東京五輪に“間に合う”という奇跡を起こせた背景に、凄まじいほどの努力の積み重ねがあったことは間違いない。

 その池江の活躍にすがろうとしているのが組織委だ。

「コロナの影響もあり、世論調査を行うと国民の6割~7割が東京五輪の開催を望んでいないという結果が出ますが、組織委としては池江さんの復活劇を機に空気が変わるのではないかと考えている。組織委が池江さんを、開催機運が全く盛り上がらない東京五輪の救世主にしようとしているのは間違いありません」(スポーツ紙デスク)

 東京五輪の開催に社運がかかっている大手広告代理店「電通」も同様で、

「電通の幹部に聞くと、池江さんが代表に選ばれたことで“ホッとした”と言っていましたね。電通は今後、マスコミともタッグを組み、“池江の池江による池江のためのオリンピック”に仕立てていくのではないでしょうか」(スポーツ業界関係者)

 池江が起こした奇跡のウラで多くの「大人」が蠢き、算盤勘定をしているわけだ。

『街場の五輪論』の共著があるコラムニストの小田嶋隆氏が言う。

「池江さんはオリンピック開催の切り札にされてしまっているように見えます。もちろんご本人にそんなつもりはなく、結果を出すために頑張っているだけなのでしょうが、このように偉業を成し遂げた人を自分たちの都合のいいように利用しようとする大人はいつの時代にもいるものです」

 小田嶋氏によると最近、東京五輪についてネガティブなことをツイートすると、

「“池江さんの前でも同じことを言えるのか”という困ったコメントが来るようになりました。池江さんが東京五輪開催反対派への口封じに使われてしまっているわけです。本来、池江さんの頑張りと五輪開催の可否は分けて論じられるべきですが、それが一体になってしまっている風潮には違和感があります」

 スポーツ評論家の玉木正之氏も言う。

「東京五輪を絶対に開催できる方向にもっていきたい日本の政府や組織委の人たちにとって池江さんは重要なコンテンツになっている。しかし、周囲の大人たちが、一人の出場選手に過ぎない彼女におんぶに抱っこで頼りきっているなんて、情けないことこの上ない」

“僕の水の天使”

 組織委や電通以上に池江を利用している「大人」もいる。「気を送る」などと称して池江にオカルト療法を施しているとみられると本誌(「週刊新潮」)が写真付きで報じた、吉本興業所属の“怪芸人”、なべおさみ(81)である。

「池江さんの復活を受け、なべは“璃花子は僕の治療を受けたから回復した”と触れ回っています。池江さんのことは“僕の水の天使”と呼んでいて、“僕がずっとパワーを送っている”とも話しています」

 そう語る吉本興業関係者によると現在、なべには芸能関係の仕事がほとんどない。その代わり、

「気功の仕事は増えているようです。池江さんが活躍すればするほど、なべの元に治療してほしいという話が舞い込む。東京五輪出場が決まったことでより気功の仕事が増えると見込んでいるようで、今やなべは“僕は神だから”とまで豪語しています」(同)

 また、なべは、

「璃花子はいい判断をした。小林麻央ちゃんは僕のところに来るのが遅かったから間に合わなかった」

 とも周囲に話しているといい、その発言には確かに「神の視線」が感じられる。池江の活躍によってこうした妄言を信じてしまう人が増えているとしたら悩ましいことである。実際、

「最近、なべは“璃花子が復活したおかげで、吉本興業の大崎洋会長が僕を信用してくれるようになった。どの芸人を切りなさい、といった僕の助言をよく聞いてくれる”と吹聴するようになったといいます」(芸能界事情通)

 池江が起こした奇跡が回り回って吉本の経営にまで影響を及ぼしている可能性があるわけである。

 先の小田嶋氏は、

「私は報道などで見ているだけですが、池江さんの近くにはなべおさみがいるとか、いろいろと言われていますよね。アスリートは、池江さんのように純粋に競技に集中している人ほどうっかり利用されやすい傾向があるように見えます」

 として、こう指摘する。

「アスリートが練習に打ち込めば打ち込むほど視野が狭くなるのは当たり前ですが、それを利用しようとする大人から彼らを守る存在が必要だと思います。池江さんはまだ若いのでなおさら、彼女が利用され過ぎないよう見守る大人がついていて欲しいですね」

 競技に集中できる環境を整えること。それこそが「大人」に求められている仕事であろう。

週刊新潮 2021年4月22日号掲載

特集「東京五輪の救世主『池江璃花子』にすがる“大人たち”の算盤勘定」より

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