テレビ局は東京オリパラが中止になったらどうする?昭和のナイター中継を思い出せ

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 7月23日からとされている東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京オリパラ)まで約3カ月。まだ開催か中止か再延期かが決まらない。昨年の場合、3月末に延期が決定すると、各テレビ局がてんやわんやとなった。穴を埋める番組の用意とそのスポンサーを獲得するためだ。今年の各局の内情はいかに。

 東京オリパラまで3カ月に迫ったが、画面の中は盛り上がらない。昨年3月中旬にはスケートボード・西村碧莉選手(19)らが出演し、「一生に一度が、はじまった」とのメッセージが流れるコカ・コーラのCMなどが流れていたものの、現在はオリパラ前のムードを高めるようなCMがない。

 4月中旬の今も東京オリパラが開催されるかどうかが決まっていないからなのは書くまでもない。スポンサーとしては悩ましいだろう。

 各テレビ局にとっても3月末の時点で延期が決まっていた昨年のほうがまだ良かった気がする。

「いいえ。今年のほうがずっと良い。中止や再延期でも慌てずに済むよう準備が進められていますから」(民放スタッフ)

 どんな準備かというと、最近は地上波でほとんど観なくなったナイター放送のテクニックを生かすものだという。Bプログラム(Bプロ)の番組を用意しているのだ。通称・雨傘番組である。

 ドーム球場が存在しなかった昭和期、ナイターは雨でよく流れた。試合開始直前にどしゃぶりの雨で急きょ中止になることも。だが、各局は慌てなかった。Bプロの番組があったからだ。

「東京オリパラでも民放各局はBプロを用意する。そうしておけば、何が起きても対応できる」(同・民放スタッフ)

 昨年の場合、一番悲惨だったのはドラマ。東京オリパラと重なるはずだった昨年7月期のドラマは、通常計約10回のものを半分の5回程度にしたり、4月期ドラマの回数を伸ばしたりして対応するはずだった。

 ところが、同3月末にオリパラが消えたため、対応が間に合わず、7月期ドラマはバラバラに始めなくてはならず、放送回数も急きょ変更する羽目に。緊急事態宣言で同4月から同5月までは収録が出来なかったのも痛かった。

 今年は違う。あらかじめBプロを用意するので、右往左往することはない。その上、民放各局は不測の事態に備えるため、ドラマは早めに撮っている。例えば、始まったばかりのフジテレビ「イチケイのカラス」(月曜午後9時)も既に撮影済みなのだ。

 Bプロの語源には諸説あるが、その1つがシングルレコードから来ているというもの。A面がメーンでB面は2番手的な扱いだからである。

 昭和期のナイターのBプロとしてよく放送されたのはレギュラーの1時間バラエティーの2時間拡大版。全く観たことのない実験的な単発の2時間バラエティーが放送されたことも(内容には当たりはずれがあった)。東京オリパラが中止か延期になったら、夜のBプロはやはりバラエティーが中心になるだろう。

「そもそも民放の負担はそれほど大きくありません。オリンピック開催期間の17日間のうち、各局が3日間から4日間、朝から午後10時過ぎまで放送すれば良いので。ただし、NHKは事情が違う。連日、オリンピックを大量報道する上、13日間のパラリンピックは独占放送ですから」(同・民放スタッフ)

 東京オリパラの放送権についてはNHKと民放連で組織するジャパンコンソーシアムが保有しているが、NHKの負担額は突出している。民放とは桁違い。テレビでは不人気の競技も放送するので、そうなる。

 では、NHKは中止や延期で困るのかというと、やっぱり準備は出来ているという。

「全く問題ない」(NHK関係者)

 NHKもBプロの準備を早くから始めているのだ。そもそも同局には民放とは比較にならないほど番組のストックがある。

 ちなみにジャパンコンソーシアムが、国際オリンピック委員会(IOC)に支払った放送権料は約660億円。2018年に韓国の平昌で開かれた冬季オリンピックと合わせた金額だ。

 仮に中止になったら、放送権料はどうなるのか。1944年のイギリスのロンドン大会以来、オリンピックの中止はなく、先例から推し量ることが出来ないものの、前出の民放スタッフは「返ってくる」という。

 そうだろう。もし、全額パーということにでもなったら、受信料を使い、一番大きな負担をしているNHKが、矢面に立たされる。

 もっとも、穴を埋める番組の目途が付き、放送権料は返還されようが、中止にしてほしくないのが各局の本音。なにしろ昨年の延期だけでも大損害を被った。

 放送するはずだった競技を流せなかったので、見込んでいたCM収入はフイに。過去のオリパラのレジェンドたちが登場するような関連番組のCMも帳消し。民放1局あたりの損害は100億円を超えたと言われた。

 それでも今年は開催されたら、新たなCM収入がある。撮り溜めておいた関連番組用の素材も生かせる。半面、中止になったら、すべてが無になってしまう。

 そうでなくてもコロナ禍で在京民放キー局の売上は約2割減の状態。東京オリパラが完全に中止になると、各局の財政事情に深刻な影響が出る。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月19日掲載

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