エビデンスを“誤用”する大人はダメ 若者が身につけるべき世界に通じる唯一の習慣

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感動とたどたどしさにあふれている

 第二の「発見の感動」とは何か。早野さんは東大教授時代、学生と一緒にノーベル賞受賞論文を読むというゼミをやってきた。その中には、教科書に概要や成果がわかりやすくまとまっている研究もたくさんある。教科書を読めば簡単に結果を知ることができるにもかかわらず、なぜ「原典」にあたることが大切なのだろうか。

「結果を知るためだけなら、たしかに読む必要はまったくありません。でも大事なのは、結果だけではありません。まだ誰もやっていない分野で成果を出した時、科学者は目の前の発見に感動しています。

 そこには、『まだ世の中に表現するための言葉(これは数式も含みます)がない発見』もあります。本当に自分の見つけたものが、誰も知らないものなのかを丁寧に検証し、たどたどしくでもなんとか言語化し、数式に落とし込み、世界の科学者に伝えようとする。原典となる論文は、感動とたどたどしさにあふれているのです。

 これらは、後世の科学者が教科書にまとめる際には真っ先に抜け落ちるものです。僕は、学生時代に必要なのはその感動に触れることであり、それによって科学という営みに触れることだと考えてきました」

 早野さんは「科学とは、人知を超えたものを知ろうとする人間の営み」であると、よく語ってきた。

「人間は古代ギリシャ、あるいはもっと前から、自然、宇宙、物質という『人知を超えた何か』を理解しようと試みてきました。それは今も変わりありません。もしかしたら、宇宙のすべてがわかる日は来ないかもしれない。でも、少しでもわかろうと、近づこうとする。科学とは、とても人間らしい営みなのです」

 今まで誰もやっていないこと、新しいものを常に見つけようとし、「なぜ?」を大切にして検証を繰り返す。そんな科学の姿勢は、学問の世界に限らず、社会のどんな場面にも通じるものであり、身につけた人の「武器」になるのだ。

(取材・文 石戸諭)

石戸諭(いしど・さとし)
1984年、東京都生まれ。2006年、立命館大学法学部卒業後、毎日新聞社に入社。その後、BuzzFeed Japanを経て独立。現在、「文芸春秋」「サンデー毎日」「ニューズウィーク日本版」「日経サイエンス」等に執筆。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月19日掲載

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