宮沢りえ、八代亜紀、長井短…異例の面々が「女」を歌い上げる稀有なミュージカルドラマ「FM999」

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 その昔、まだ2時間ドラマが各局で頻繁に制作・放送されていた頃、タイトルやサブタイトルには「〇〇の女」「女〇〇」がよく使われた。理由のひとつは「事件の背景に、女の恨みや嫉妬が詰まった復讐劇」が多いから。なにかにつけて女の不幸から事件が始まるわけよ。裏切られたとか騙されたとか襲われたとか捨てられたとか。魔性の女、謎の女、赤いドレスの女、とかね。

 そして、もうひとつは「男社会」。男が当たり前の職業に、珍しく女が就くという意味を込めるからだ。ヤメ検の女にショカツの女、女医・女刑事・女検事…。男医・男刑事・男検事なんて決してつけない。もうこの時点で対等でも平等でもない。些末だけど大事。そういうところから意識を変えないといかん時代だ。特に、テレビドラマを観る世代と作る世代は「男女不平等が当たり前として育った粘土層・化石層」だからなぁ。

 粘着質で凝り固まった層を溶かすほど斬新なドラマがある。ここには「〇〇な女たち」が毎回登場して、切々と女の歌を歌い上げる。多種多彩な女という生き物を見事に表現した歌の数々、高いデザイン性と強いメッセージ性に感動して震えた。WOWOWの「FM999」(月曜21時30分)である。

 ドラマの主人公は女子高生の清美。演じるのは湯川ひな。湯川はなんというか、むき出しで凶暴な素朴さを持っている珍しい女優だ。昔の能年玲奈(のん)を思い出すな。

DJは声優・TARAKO

 清美は16歳の誕生日を迎え、怒りと不安と喜びと苛立ちなど、ひとことでは説明しがたい感情の嵐に襲われている。ふと、自分が何なのか考える。たとえば、女は16歳から結婚できるが、男は18歳からという法律。その差に闇の深さを感じるものの、明確な答えは出ない。そもそも男と女って? 私は女だ。でもいったい「女って何?」

 清美がその言葉を口にした途端、突然頭の中でラジオ放送が始まる。DJ(声はちびまるこちゃんでおなじみの名声優・TARAKO)いわく、「女って何?」という疑問をつぶやいたときに、自動的につながるラジオ、それが「FM999」だ。FMはFEMALEの略。お届けするのはリスナー清美の今の悩みに答える「女の歌」という。

 FM999には毎回3人の女がゲストで登場し、それぞれが趣向の異なるステージや衣装で自分の歌をたっぷり歌い上げる。歌い終えた後の女たちに清美が話しかける。「女って何?」に対する回答やヒントをもらうために。名言や格言をいただくこともあれば、「ひとくちに女といっても十人十色の生きざまがあるのだ」と肌で感じることもある。

 第1話で最初に登場したのが宮沢りえ。DJは伝説のディーバ・イヴと紹介。暗い森が舞台で、木々にはリンゴがなっている。虫食いもあれば毒々しい赤のリンゴも。ほどよくふくらみのあるエアリーなデザインの真っ赤な服を着た宮沢りえが歌い始める。タイトルは「一番目の女」。

 その歌の中身は、聖書にある「アダムとイヴ」の物語をイヴの本音で解説。昔、楽園で神様が男の肋骨から作ったと言われるのが女で、男を助けるつもりで作ったとされている。それに対して、イヴは「何その話、ダッサ!」と吐き捨てる。禁断の果実を食べたイヴばかりが責められているが、「自分の欲望にしたがって何がイケナイ? そもそも男のために女がいるわけじゃない」と主張。要するに「男に都合のいい物語を小さい頃から刷り込まれて女という檻に閉じ込められちゃうのが女」。清美が問いかけた「女って何?」のひとつの回答である。

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