宮沢りえ、八代亜紀、長井短…異例の面々が「女」を歌い上げる稀有なミュージカルドラマ「FM999」

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現実とリンクする生々しさ

 イヴを演じるりえは、やややさぐれた様子(リンゴを頬張ったせいか、口紅がにじんで口の周りが真っ赤になっている)で、リンゴのチューハイを飲みながら、アダムの愚痴を機関銃のようにしゃべる。家事もしないで家でゴロゴロしている夫への愚痴がダダ漏れ。

 戸惑っている清美に対して「わかんねーだろーな、いずれわかるよ。これから長い旅になるよ。覚悟しな」と、りえ。長い旅というのは、16歳の清美がこれから直面する、女ならではの疑問や怒りや悲しみ、喜びや愉しみ、諦観や達観を示唆しているわけだ。

 ほかにも、「毛皮のコート着る女」(金持ちの男におねだりした毛皮のコートを着る女だが、自立してひとりで生きていくだけが女ではないという歌)を昭和歌謡チックに歌い上げたメイリン、「サイの女」(皮膚が硬くて足も速いが、敵も味方もわからないくらい異常に目が悪く、猛スピードで沼につっこむ弱点もあるサイにたとえて、オフィスで働く女の生きざまを描く歌)をピチカート・ファイヴっぽく歌い上げた塩塚モエカ、「女に恋した女」(LGBTQに対する偏見や差別を鼻で笑い、「ひと昔前」と一蹴する歌)を70年代グループサウンズ風味のメロディで歌ったモトーラ世理奈。もし私が中学教師だったらジェンダー教育に使いたい歌だな。

 さらに、愛人を亡くした女が妻から遺骨を奪って撒く風景を描いた「泥棒猫の女」は、90年代の単調ポップス風味で、黒装束のともさかりえが歌う。「恨むのも恋、恨まれるのも恋、蔑まれるのも恋、不幸せなのも恋。全部恋」と達観した愛人論を語るともさか。いいね。それも女だ。

 そして、ショッキングピンクの広大な肩パッド入りスーツを身に着けた八代亜紀がジャジーに歌い上げたのは「総理大臣の女」。ここ十数年の政治家に対する揶揄たっぷりの歌詞も秀逸だが、政治家の男女格差を「ずるくなーい?」とブリッコしながら愚痴る八代が妙に生々しくて。

最終話のシークレットゲスト

 強くてしなやかな女だけではない。それこそメンヘラも自虐癖も出てくるし、結婚願望の強い漁師も出てきた。それぞれの女の歌のイメージにこのうえなくぴったりな女優や歌手、タレント、アーティストが配置されているところもすごい。

 全10話あるので、この先もセンスのいいキャスティングに期待できる。個人的に興味津々なのは、第4話の三浦透子とゆりやんレトリィバァ、第5話の研ナオコ、第6話の青山テルマと長井短かな。第9話は私の大好きな内田慈に水原希子、坂本美雨(教授の娘)も参加。最も気になるのは最終話のシークレットゲストだ。タイトルは「心臓の女」。……え、まさか昭恵?

 キツい冗談はさておき。清美が学んでいくドラマの仕組み、独特な世界観がとにかく新しいし、シニカルで良質なミュージックビデオとしても楽しめる。なんだろうな、来宮良子ナレーションの「演歌の花道」に痺れる薬味を入れて、ジェンダー意識をちゃんとまぶしてカラッと揚げてカラフルなトッピングをぶっかけたような番組。わからんだろうから、観て、聴いてくれ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月19日掲載

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