坂元裕二脚本「大豆田とわ子と三人の元夫」 初回放送で最も胸に刺さったシーンは?

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 脚本界の実力者である坂元裕二氏(53)の約3年ぶりの連続ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」(火曜日午後9時)が、フジテレビ系で13日に始まった。坂元作品の評価は群を抜いているものの、視聴率が伴わないことがある。さて、今回は――。

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 14日に判明した第1話の世帯視聴率は7.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区、以下同)。世帯視聴率での合格ラインは10%なので、ほろ苦の船出となった。

 坂元作品の評価は高い。見る側の胸に刺さり、記憶に留まる。坂元氏の初の書き下ろし映画「花束みたいな恋をした」も2度、3度と観る人が珍しくない。

 だが、ドラマは一般的な大衆作品とは様相がやや異なるので、視聴率には恵まれないことも。広瀬すず(22)が主演した約3年前の坂元作品「anone」(日本テレビ)も全10回の平均世帯視聴率は6.1%だった。

 ただし、「大豆田とわ子と三人の元夫」は掛け値なしに面白い。その上、新しかった。ロマンチックコメディと銘打たれているが、なるほどイタリアのラブコメディに通じる。良い意味で軽く、洒脱。泥臭さがない。それでいてトレンディドラマのように浮き世離れしているわけではない。

 松たか子(43)が扮する主人公のとわ子はバツ3。だが、特別な女性ではない。明るく聡明でチャーミング。次の結婚もあきらめていない。まず、ここが新しい。これまでのドラマだったら、男女ともにバツ2の時点で風変わりな人物に描かれた。バツ3以上の女性なら、後妻業だった。

 日本の離婚率は約35%。もはや離婚はよくあること。ところが、ドラマでの離婚の描き方はダークになりがちだった。このドラマは違う。とわ子に陰はない。3人の元夫たちにもカラリと明るく接している。かといってお気楽で奇特な人というわけでもない。

 友人の綿来かごめ(市川実日子、42)がこんな言葉を口にした。
「離婚というのは自分の人生にウソを吐かなかった証拠だよ」
 このドラマのベースにある考え方に違いない。

 とわ子が過去にどんな男と結ばれ、別れたかというと、最初は田中八作(松田龍平、37)。脱サラし、現在は東京・奥渋谷にあるレストランのオーナー兼ギャルソンをしている。穏健で物静かな男だ。とわ子が一緒に暮らしている中学3年の一人娘・唄(豊嶋花、14)の父親でもある。

 2人目はファッションカメラマンの佐藤鹿太郎(東京03の角田晃広、47)で、とわ子に未練タラタラ。出入り禁止と言われているにもかかわらず、とわ子の自宅に押しかけてくる。

「ごめんなさい。気がついたら、ここに立っていました」(鹿太郎)

 そんなわけない。とわ子は追い返そうとするが、唄は「かわいそうだよ、入れてあげな」と同情する。しかし、とわ子は仏頂面だ。

「この人が恐縮しているのは初めのうちだけなの。すぐ、いて当たり前という顔し始めるの」(とわ子)

 事実、とわ子が渋々家に入れた途端、靴下を脱ぎ始めた。とわ子の冷たい視線に気づき、慌てて履いたものの、ソファーにどっかりと腰を下ろす。

「はぁー。家族の匂いがするね。懐かしいわ。あー、やっぱいいわ」(鹿太郎)

 本当に図々しい。笑えた。角ちゃんこと角田にはハマり役だ。

 3番目の夫・中村慎森(岡田将生、31)は弁護士。とわ子が社長を務める住宅建設会社「しろくまハウジング」の顧問でもある。なぜか自信満々だ。

 その上、無愛想で理屈っぽい。やはり、とわ子に気持ちが残っている。こちらも、とわ子宅には出禁。だが、唄を籠絡しているらしく、とわ子の留守中に上がり込む。

 3人の元夫がいるという設定は想像以上に愉快。1人の女性に2、3人の恋人候補がいるというドラマはやり尽くされた感があるからだ。

 半面、元夫という近くて遠い存在が複数いるというのは新鮮。その存在が敵なのか味方なのか分からないところが面白い。今後、坂元氏はこの3人を使い、これまでになかったストーリーを紡ぐのだろう。

 セリフはいつもながら珠玉。八作宅で彼がとわ子に対し、「そっちはどうなの。楽しくやってんの」と問い掛けると、とわ子は「うん。まぁ、いろいろあるさ」と、ぼそぼそ答える。

「いろいろって?」(八作)
「いろいろだよ。どっちか全部ってことはないでしょ。楽しいまま不安。不安なまま楽しい」(とわ子)

 人間心理の機微をキザにならない範囲内でサラリと盛り込んでいる。
 とわ子が自分の母の死を八作に伝える場面がより良かった。とわ子が突然、突拍子もないことを言い出す。

「品川で、歩いてて。風強かったんだよね。誰かの家に干してある布団が飛んで。私、『あっ、布団が吹っ飛んだ』って」(とわ子)
「いつ」(八作)
「お母さんのお葬式の帰り。布団が吹っ飛んだんだよ」(とわ子)
「そうだったんだ……」(八作)
「駄洒落って現実に起きることもあるんだね」(とわ子)
「そっか……。ありがとう教えてくれて」(八作)

 とわ子は婉曲にしか母の死を言えなかったのである。前述の通り、元夫は近くて遠い存在なのだから。

 第1話で坂元氏の創作者としての才能が最大限に発揮されたのは次の言葉ではないか。やはり、とわ子が母の死を八作に伝えるシーンだ。

「悲しいって言えば悲しいんだろうけど、言葉にしたら、言葉が気持ちを上書きしちゃう気がしてさ」(とわ子)

 とわ子は40歳という設定。親の死と向き合う世代だ。親との永訣は途方もなく辛く、口では言い表しがたい。とわ子の場合、言葉にしてしまうと、母への思いが矮小化されてしまうと思ったのだろう。

 こういった複雑な感情を脚本に取り入れるのが巧みなのは倉本聰氏(86)、山田太一氏(86)。受け継いでいるのは坂元氏にほかならない。巨匠2人と坂元氏の作風はもちろん違うが、ドラマで描こうとしているものは一緒。人間の実像である。

 ナレーションが多用されたのも特徴だった。その声を担当したのは伊藤沙莉(26)。もともとナレーションや吹き替えの仕事が多く、それも評価されている人だが、今回は音声加工が施されていたのではないか。伊藤だと分からないだけでなく、性別や年齢も不明だった。謎めいたナレーションとなり、効果的だった。

 映像が美しいと思った人も多いはず。実質的に制作を担当したのは制作会社のカズモだ。TBSで「岸辺のアルバム」(1977年)や「ふぞろいの林檎たち」(1983年)などをプロデュースした故・大山勝美氏が、定年退職後に設立した会社である。

 終盤、母の納骨に臨んだとわ子が、喪服姿で桜の花びらを浴びる映像は特に美しかった。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月17日掲載