「とくダネ!」小倉智昭が残した功績 スタッフから慕われた裏の素顔(古市憲寿)

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 若い友人に盛大な誕生日パーティーを企画しようとして、取りやめになったことがある。理由は、人生のピークを今にしたくないから。

 面白い発想だと思った。

 人生のピークをいつだと思うかは人それぞれだ。「高校時代はよかったな」と語る大学生もいれば、「俺はまだ本気を出していない」と語る70代の漫画原作者もいる。

 後者は『北斗の拳』や『サンクチュアリ』の原作者として有名な武論尊さんだ。本気で次のヒット作を考えているのである。

 並みの人間であれば、成功してしまった後、どうしても「次の一手」に臆病になってしまう。オーディエンスからは「劣化した」とか「昔の方がよかった」とか手厳しい感想を浴びせられるかもしれない。

 そんな批判に遭うくらいならと、「隠居」してしまうクリエーターも多い。本当の引退という場合もあるし、ヒット狙いではないとアピールしながら、いかにも褒められそうな作品だけを発表する人もいる。

 もちろん美学は人それぞれあっていい。だけど人生の終わりは不確定だ。「第1波」以上のブレイクが「第2波」、「第3波」として来ることもあるだろう。

 Mr.Childrenの桜井和寿さんはライブのMCで、まだまだ大ヒット曲を出したいと言っていた。最近でも「innocent world」の練習をしているのだという。もっと上手になりたい、ということらしい。

 フジテレビの朝の顔として、22年間にもわたって親しまれてきた「とくダネ!」が3月末で幕を閉じた。司会の小倉智昭さんは73歳。世間には「これで小倉さんも引退か」といった反応もある。確かに会社員で考えればリタイアの年齢として不自然ではない。

 しかし本人はまだまだ現役を退く気はないようだ。

 テレビ越しの小倉さんは「いじわるじじい」にしか見えないが、実はスタッフから慕われている。理不尽な要求はしないし、周囲のミスも自分が背負う。気遣いは欠かさない。気象予報士の天達武史さんなど「とくダネ!」発の有名人も多い。その意味で、番組の最終回を残念がっているのは、視聴者よりも周囲の人間かもしれない。もっとも、坂上忍さんのように、昔は血気盛んな時期があったのかもしれないけれど。

 僕が初めて「とくダネ!」に出演したのは2012年9月。中国で若者による反日デモが盛り上がっている頃だった。僕も年を取ったが、小倉さんの隣にいる限りは「若者」ぶることができた。力士の隣に並ぶと誰もが激やせして見えるように、年齢とは相対的なものだ。

 こんなふうに、小倉さんの「功績」は、いくらでも書き連ねることができる。しかし、過去に属する事柄よりも興味があるのは、未来に関することだ。

 いつが人生のピークなのかは誰にもわからない。しかも人生100年時代である。ひょっとしたら、次の作品が小倉さんの代表作となる可能性もある。今から何か新プロジェクトを始めて23年間続けたとしても、まだ96歳なのだから。

古市憲寿(ふるいち・のりとし)
1985(昭和60)年東京都生まれ。社会学者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員。日本学術振興会「育志賞」受賞。若者の生態を的確に描出し、クールに擁護した『絶望の国の幸福な若者たち』で注目される。著書に『だから日本はズレている』『保育園義務教育化』など。

週刊新潮 2021年4月15日号掲載

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