文在寅の弱みにつけ込む中国 「韓国が米側に戻る橋」を壊す

鈴置高史 半島を読む 国際 韓国・北朝鮮 2021年4月12日掲載

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文在寅の弱みにつけ込む中国

 さらに悪いことに4月5日、北朝鮮が新型コロナの流行を理由に東京五輪の不参加を発表した。文在寅大統領は北からも引導を渡されたのです。

 五輪の場を借りて南北首脳会談や米朝首脳会談を開き、その実績を持って「監獄逃れ」を図る作戦だったのですから、目の前が真っ暗になったと思います。

 北朝鮮が不参加を発表した日がソウル・釜山市長選挙の2日前だったのも、文在寅大統領にはショックだったでしょう。南北と米朝の首脳会談の可能性を潰す発表を、わざわざ選挙直前にするとは「文在寅政権は潰れろ」と言い放ったのも同然だからです。

 残る「監獄逃れ」への秘策は習近平主席の国賓訪問ぐらい。さほどの得点になるとは思えませんが、経済政策など内政は失敗続き。外交は米国・北朝鮮・日本からまともに相手にされなくなっている。そんな中、習近平訪韓しか頼みの綱がないのです。

 もちろん、中国は文在寅氏の弱みを見抜いている。それにつけ込んで、訪韓には相当な対価――「韓国に親米政権が登場しても、米国側に戻れなくなる」要求を突き付けると思われます。例えば文在寅政権に対し、サムスン電子に5G向け半導体工場を中国に作らせろ、と強要するのです。

 4月3日の中韓外相会談で、韓国は習近平訪韓を哀願したと思われます。韓国外交部の発表には「中国側は習近平主席の訪韓意思を改めて表明し、双方は習主席の訪韓がコロナ19の状況が安定し状況が整い次第、早急に実現するよう積極的に意思疎通するとした」とあります。

 一方、中国側の発表は「習近平訪韓」に一切触れませんでした。時がたつほどに文在寅氏の「監獄への恐怖」は高まる。待てば待つほど大きな対価を引き出せる、と読んでいるのです。チャ上級副所長が「政権末の焦り」を懸念するのも当然です。

「デジタル同盟」から排除

――朝鮮半島の激変は案外と近い、ということですね。

鈴置:次のアジアの激変は台湾有事――中国の台湾侵攻であり、それは2022年2月の北京五輪の後と見られてきました。しかし、その前に米中が外交的にぶつかる「朝鮮半島有事」が発生すると覚悟を固めた方がよさそうです。軍事衝突は伴わないにしても、同盟関係を激変する可能性が高いのです。

 4月8日、米上院外交委員会は超党派で練った「Strategic Competition act of 2021」(戦略的競争法2021)を公表しました。

 経済・軍事両面で中国との競争にうち勝つためにすべきことを定めた法案で、同盟国・パートナー国との協力に重きを置いています。

 金真明記者も「米、反中連合戦線から韓国排除」(4月10日、韓国語版)との見出しで報じました。「韓国排除」とあるのは、法案で韓国の影が異様に薄かったからです。

 この法案は米国のデジタル覇権を維持するため行政府に「デジタル貿易協定」(Digital Trade Agreement)を結ぶよう求めてもいます(48-52ページ)。中国に立ち向かう民主主義国だけで先端技術を共有する一方、中国製品には依存しない戦略です。

「デジタル同盟」の参加国に挙げたのはEU、日本、台湾と、米国と機密情報を共有するファイヴ・アイズ(英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)の国々。しかし、韓国の名はありませんでした。

 それに関しメネンデス外交委員長は「5G問題において米国と同じ立場の国々を集めた」と金真明記者に語りました。韓国の通信会社が中国のファーウェイ(華為技術)の5G機器を使い続けていることが問題視されたと同記者は分析しています。

 米国は5G協力機構「クリーン・ネットワーク」を掲げ、ファーウェイの基地局を使うなと同盟国に求めましたが、韓国政府は無視しています。

――韓国は中立を認められるということでしょうか?

鈴置:大国が激突する時、地政学的に重要な位置にある国は中立を許されません。二股をかける韓国は中国と同様、敵国扱いされて西側の技術ネットワークから追い出されるのです。

 先端半導体素材の韓国への供給を絞る「5G」攻撃に、米国と日本は予想外に早く乗り出すことになるのかもしれません。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

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